表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様の隠し事  作者: 木に生る猫
番外編
1069/1102

レイン、行動を禁止される⑥

 ぱらり、ぱらり、ゆっくりとページが捲られる音だけが響く。

 伏せられた紫色の瞳は文字を追い、時折何かを考え込むように目が細められる。

 そんなレインに注がれる視線が、二つ。

 そして、また一つ増えて――


「……あ、あの、三人とも? そんなに見つめられると読みづらいんだけど……何? リウまで見つめてこないでよ……」

「ああ、いえ。なんというか……」

『夕焼けに照らされるお兄様が、とっても綺麗でしたの!』

「……本当、顔だけはいいよね〜……リウちゃんは釣られて見てただけだろうけど〜」

「綺麗だとは思うわよ。美術品を見るような気持ちではあるけれど」

「何か喜びづらいなぁ……」


 レインがそう言いながら、ちらりと部屋に設置された窓を見た。

 レインが病に罹ってから、数日が経った。

 想定よりも治療は難航しており、リウが何日も日光を浴びないのは良くないからと窓を設置し、地下であるここにも光が届くよう空間魔法で外の光が届くようにしたのが、昨日のことである。

 退屈だろうからとリウが貸し出してくれた本を読んで、レインはこれまでずっと暇を潰していたわけだが、リウが本を貸してくれたのはもっと前。

 窓が設置されただけでどうしてそんなにも、とレインが首を傾げた。

 さらりと、金髪が揺れる。


『……お兄様……美しいですわぁ……』

「レイシェ……恍惚としてて怖いんだけど。いや、僕にそんなことを言う権利は無いんだけど。散々リウにこんな顔晒してるんだろうし」

「そうね。レイシェのこれよりずっと怖いけれど。それより修復を始めてもいい? そろそろ魔力を馴染ませる作業を終えて……いえ、継続はするのだけれど、とにかく修復に着手できそうなの。まだまだ時間は掛かるけれど……身体はもっと楽になるはずよ」

「うん……お願い。あんまり、僕がリウの時間を奪うわけにはいかないから。嬉しいけどね」

「……こういうタイミングでは謙虚なのね。普段からそうならいいのに」


 冷たい眼差しでリウがそう言い、息を吐き出した。

 そして、魔力を貯めた水晶を握り締めながらレインの額に指を当てる。

 随分と慣れてきて余裕のあるレインはにへらと笑い、じっとその姿を眺める。


「楽しんでいるわね。その目玉、抉ってやってもいいのよ?」

「痛いし凄惨。レイシェにそんな光景を見せたいの?」

「そんなことはないけれど。だって仕方が無いじゃない、嫌なんだもの」

「何も仕方なくはないと思うけど……。……ディライトは、ちょっとくらい僕の味方してくれるよね?」

「ボクはいつでもリウちゃんの味方だよ〜?」


 レインが言うと、ディライトが満面の笑みを浮かべながらそう言った。

 その割にディライトはよくリウのことを正論で殴ってくるので、リウはパッと振り返ってディライトを睨む。


「……ん。終わったわよ」


 少し機嫌悪そうにリウが言い、二色の瞳で改めてレインを眺めた。

 その内側、魔力の器を見通し、リウが目を眇める。

 穴は少し小さくなった。

 ここから問題無く、魔力が馴染んで器の一部になってくれればいいのだが。


「調子は?」

「……うーん……たぶん、良くなってる……気がする? 少しだけだけど……」

「でしょうね。少ししかまだ塞げないし、時間も経ってないし。ただ、私の魔力という不純物が減ったんだから、少しは良くなっているはずよ」

「リウの魔力が不純物だなんて、僕は言いたくないんだけど。多少体調が悪くなろうとずっとあってほしい。僕の体内にリウの一部が――」

「ほんっとうに気持ち悪いっ、いっそ魔力を抜いて――うぅ、うぅうう〜!」


 レインの口から気持ち悪い発言が飛び出したので、リウが顔を顰めながら魔力を抜こうとした。

 しかし、レインの体調が悪化すれば、レイシェはとても心配するだろう。

 リウはそれに気が付いて、唸り声を上げながら魔力を抜こうと伸ばした手を引っ込めた。


「レインくん……」

「違う、いや違わないんだけど、今のはつい、ちょっと嬉しさが飛び出して……体調が悪いせいもあるかも、本当にわざとじゃないから……!」

『お兄様、流石にあれは良くありませんわ。わたくしも……擁護するのは、ちょっと……』

「しなくていいよあんなの! ごめんねリウ、嫌だったよね? リウがそれで満足するならもちろん魔力を抜いてくれても……」

「そんなことをしたらレイシェが心配するでしょう! もう帰るから、何か異変でもあったらすぐに言って!」


 リウがそう叫び、返事を待たずに転移で去った。

 レインが脱力し、死んだ魚の目で天井を見る。

 からかい目的で少しだけああいう発言をしてみることもゼロではないが、今回のはぽろっと漏れ出したものだ。

 気が緩んだ、とレインが眉を寄せる。


「体調不良? それとも〜……そうじゃないなら、治ったら酒飲むよ。で、またリウちゃんにも手伝ってもらって、色々吐き出そうね〜」

「たぶん前者。頭回ってないからぽろっと出た。……ごめんね、レイシェ」

『わたくしは、別に……お兄様はリウのことが大好きですもの。……ただ……今後は、なんとか控えてくださいましね?』

「わかってる。はぁ……もう休むよ。ディライトもレイシェも、僕に構いすぎなくていいから」


 レインはそう言うと、すぐに目を閉じて眠りへと落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ