リウの愉快な魔法研究②
ゆらり、ゆらり。
不自然な動きで、人影が揺れる。
ゆらり、ゆらり……ゆらぁりと。
「怖い怖い怖い怖いってばリウちゃん!?」
「……ふ、ふふっ……ふっ。どうして逃げるの? ねぇ、ディライト」
ゆらりゆらりと、不気味な動きでディライトに詰め寄り、リウが軽く首を傾げた。
目だけ笑っていない顔をしているので、とても怖い。
「……ディライトが悪いと思いますけど……お姉さまがこうなることはわかっていたはずなのに」
「頑なに休まなかったリウちゃんも悪いよね!?」
「別に干渉をしたことは怒っていないわ。私が怒っているのは、無遠慮に私のことを撫で続けたこと! あの馬鹿ですら、後で私が嫌がるだろうからって遠慮してたのに……顔が嫌だったから、後でちょっとメイリーに預けるけれど」
「えっ酷い」
「冗談よ。気に食わないのは本当だけれど。……リティルも、ありがとう。嫌がるだろうって、撫でないでくれて……なのに、なのにぃっ。ディライト、あなたは……!!」
撫で回された頭を抱え、リウが顔を赤くしながらディライトを睨んだ。
甘えられたから、少し撫でる。
それくらいなら良かったものを、催促されたわけでもないのに撫で回されたのである。
ああいう状況になったのは自分のせいとはいえ、リウとしては文句くらい言わせてほしいところだった。
「……さらさらだったな〜!」
「こんっのディライト……!! 逃げるな! 魔法の実験体にしてやるぅっ」
「本当にやめてそれはやめて冗談だから忘れるから!」
「う〜……!」
「……リウ? えっと……ほら、休憩もできたことだし、そろそろ作業に戻らない? あ、今度は一人で突っ走らないでね」
「……むぅっ。わかったわ……ディライト。今は、見逃してあげる。リアはどうするの? 戻る? それとも参加する!?」
「嬉しそうなところ申し訳ありませんが、戻ります。ごめんなさい……ただ、今日はリテアが甘えん坊で。くっついて寝るって言って聞かないので……」
「あら……それは仕方ないわね。むしろ、付き合わせてしまってごめんなさい……」
リウが肩を落としながら言うと、リアがふるふると首を横に振った。
そして、そっとその髪に触れながら微笑む。
「甘えてくるお姉さま、凄く可愛かったので……大丈夫です。リテアには申し訳ないですが、来てよかったと思っています」
「もう、リアったら……恥ずかしいからやめて。それじゃあ……おやすみなさい、リア。ディライトは、適当なタイミングで帰すわね」
「帰さなくても……いえ、マリーツィアが起きたら面倒ですね。朝までにはお願いします」
「ん、わかったわ。おやすみ」
「おやすみなさい、お姉さま」
姉妹が微笑み合い、リウがリアを見送るとぱっと全員の顔を見た。
調子に乗って撫で回してきたのはディライトだけだな、と再確認をして、リウが紙の束を取り出す。
「はい、これ。リティルに」
「ん……? これは……」
「興奮している時にちらっと言った気がするけれど……まだあなたの世界には瘴気が残っているでしょう? だから、それを魔力に変換する魔法陣と、その構成要素と、論理と……とまぁ、そんな資料よ。活用してね」
「お、おお……? しかし、こっちの世界の魔力では……いや待て、私の世界の魔力に変換するのか!?」
「ええ、もちろん。じゃないと効率が悪いでしょう? とはいえまだ詰められそうなところはあるから、完成したらそっちも渡すわね。ええと、そうだ、レイン? ちょっとここを見てほしくて……」
若干興奮しかけていることを自覚し、自分の思考を回転させる前にリウがレインに声を掛けた。
そして、リティルに渡した魔法陣と全く同じものを見せると、悩ましそうに眉を寄せながら尋ねる。
「ここ。ここの要素を少し詰められると思うのだけれど、どうするのが一番いいかしら……」
「これって……変換前の浄化機構に当たる部分? ここで瘴気を一旦浄化する流れだよね?」
「うん、そう。ただ、利用できない不純物をもう少し活用できそうで……なのに、ここを変えちゃうと上手く魔法が成立しなくて。どうも条件が他と噛み合わないみたいでね……私は、聖属性の要素を若干強めるか、要素の圧縮をしたらいいと思うのだけれど……レインはどう思う?」
「それでも全然いいと思うけど……強いて言うなら、圧縮より連結がいいんじゃない? ほら、えーと……六千年くらい前に……」
「ああ……!! すっごく惜しいところまで行った魔法研究家の論文! なるほど、なるほど……別の要素と連結する。そうすることで、要素と要素を繋ぐモノが無くなって余裕ができる……複雑なのも組み込めるかも。それで上手く条件付けができれば……」
何やら魔法の話をし合うレインとリウに、リティルが首を傾げた。
そして、戸惑った顔をしながらディライトに尋ねる。
「何を言っているのかわかるか?」
「あんまりわかんない。魔法陣と圧縮とか連結って何……? どういうこと……? そんなことできるの……? 怖……」
「お前にもわからないのか……」
「わかんないよ、今のボクはただリティルとの連絡要因だも〜ん」
ディライトがそう言って肩を竦めた。




