ノルティアナの舞踏会㉕
ふわり、淡い金色が舞う。
ふわり、眩い金色が舞う。
「ふふっ。レイシェ、踊るのが上手ね」
『お兄様と練習しましたのよ。元から踊れはしましたけれど……リウの前で、失敗はしたくありませんもの!』
「あら、嬉しい。……レインに失敗を見せるのはいいの?」
『できれば、避けたかったのですけれど……ダメでしたの。失敗した上、見栄を張ろうとしていることすらバレてしまって……むうぅ……練習はたくさん付き合ってくださいましたけれど。お陰で、随分と上達はしましたけれど』
少し落ち込みながら言うレイシェに、リウがくすくすと微笑んだ。
そして、そっとレイシェをリードしてやりながら頷く。
「凄く踊りやすいわ。本当に、たくさん練習したのね」
『お兄様の方が凄いんですのよ。見ておりましたか?』
「見ていたけれど……なんというか、認めたくないわね。私よりも上手そうだった。いえ、長らく私は踊ったりしていないのだから、当然ではあるのだけれど。……レインが先生になってレイシェに教えていたからか、踊り方が似ているわね。とにかく相手が踊りやすいようにって、そういう工夫がされてる。……元は、面倒を呼び込まないためかしらね」
『お兄様も、そう仰っておりましたわ。そうした方が面倒が無いと』
「そう。……レイン、楽しめてた?」
個人的な感情は置いておいて、折角の舞踏会なのだからとリウが尋ねると、レイシェが目を丸くした。
リウはその辺り、興味は無いと思っていたらしい。
わざわざ聞かれはしないだろう、と。
『……そう、ですわね。なんだか……いつにも増して、わたくしのことを笑顔で眺めている気がしますわ。今も』
「まぁ……ずっと、あなたとは会えていなかったわけだし。レインがレイシェと初めて会ったのは、公爵令息だった時だし……懐かしくて仕方がないんでしょう」
『……楽しめているのでしょうか?』
「うん、そうね。楽しんではいるんでしょう……舞踏会における楽しみ方をしているのかどうかは、置いておいて。……にしても本当にずっと見ているわね。ディライトのことは気にならないのかしら……」
『ディライト様? あ、そういえば、さっきリテアちゃんと一緒に……』
レイシェがそう言いながらちらりと周囲を確認した。
レイシェは一時期天界にいたので、もちろんディライトのことはある程度は知っている。
というわけで、ディライトのことはしっかりと認識できるわけだが。
『……ディライト様こそ、楽しめているんでしょうか?』
「……。……うーん……リテアをからかって楽しんでいそうね?」
面倒そうにリテアに付き合っている様子のディライトを見て、レイシェが心配そうにリウに確認した。
するとリウもディライトの様子を確かめ、少なくとも退屈はしていないと安心させる。
『……あ、お兄様が……』
「ディライトとリテアのことを見ているわね。……後でディライトをからかいそう」
『そうですわね。喧嘩とか、しないといいのですけれど……』
「どうせからかい合うだけでしょうから、大丈夫よ。……そろそろ、踊りに集中しましょう?」
くすりと微笑みながらリウが言うと、レイシェは頷いた。
そして、たくさん踊って満足しながら、レイシェがリウの手を引いてレインの元に戻る。
そこにはディライトとリテアもおり、何やら会話をしていた。
「……あ、おかえりレイシェ。どうだった?」
『とっても楽しかったですわ! わたくし、今日は大満足でいい夢が見られそうで……!』
「……疲れちゃって、夢も見ないんじゃない?」
『もう、お兄様ったら!』
頬を膨らませるレイシェにレインが微笑み、ディライトに視線を戻した。
若干不機嫌そうな顔をしている。
「……」
「ディライト、そろそろ機嫌直してよ……僕が悪かったから……」
「……レイン、何かしたの? なんとなくわかるけど……教えて頂戴な」
「あ、えっと……普通に意外と上手だねって褒めたら、拗ねちゃった」
「拗ねてないよ〜……」
「ディライト……何が嫌だったの? 意外とって部分?」
褒めただけ、とは言っても余計な言葉が付いていたので、リウがそれが原因かと首を傾げた。
しかし、ディライトはふるふると首を横に振ると、それを否定する。
そして、じとりとレインを睨みながら言った。
「リテアちゃんの方が上手って言うんだもん〜……からかおうともしてない顔で……ボク、下手だった……? ……あと、拗ねてないから。ちょっと落ち込んでるだけ」
「に、兄様、元気を出してください……私は、そんなことは無いと思うんですけど……」
「……ああ。下手というより、若干自分本位な動き方をしていたからでしょう。その辺り気を遣っているレインには、下手に映ったんでしょうね」
「姉様、姉様。私、楽しかったですよ?」
「本当に少しだけなのよ。あとついでにちょっとからかい混じりでやってた節もあるし。気になるほどではないでしょうね。うん、レインが悪いわ。謝って」
「さっきから謝ってるってば……ごめん、ディライト。だからもう怒らないで」
レインが面倒そうにそう言い、溜息を吐いた。




