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魔王様の隠し事  作者: 木に生る猫
番外編
1053/1102

ノルティアナの舞踏会㉓

 リウとリアのダンスが終わり、会場は拍手喝采に包まれる。

 二人は幸せそうに微笑みながら中心から退場し、気配を殺して人混みに紛れた。

 すると、レアとリテア、レインとレイシェ、そしてレクスとリーベ――色んな人たちがダンスを始める。


「お姉さま、私はヴェルジアと踊らないといけないので、失礼しますね」

「ええ、楽しんで」


 申し訳なさそうに言うリアにリウはそう返し、にっこりと微笑んだ。

 そして、転移で会場の隅に向かうと、壁に背中を預けて幸せそうに微笑む。


「リウちゃ〜ん? もう踊らないの?」

「ん、ディライト。……言ったでしょう、私は見ていたいだけなの。誘われたら基本断らないだけ。……それとも、あなたが誘うつもり?」

「いや〜? ボクは一度だって踊るつもりはないからね〜。リウちゃんを働かせないために、警戒もしておかないといけないし〜?」

「それじゃあディライトが楽しめないじゃない」

「充分楽しんでるよ〜。リウちゃんと妹ちゃんが楽しそ〜に踊る姿も、見てて微笑ましかったし〜、今も……ほら、リテアちゃんと子竜ちゃん、見て」


 ディライトがそう言いながら軽く手で二人がいる方を指し示すと、二人はとても楽しそうに踊っていた。

 リテアが楽しそうに大きな動きで踊り、レアはどこかに当たらないようリテアを支えながら、時折釣られるようにして一緒に大きな動きをしたりもしている。

 綺麗というよりは、ひたすらに楽しそうな踊りだった。


「あら、ふふ……いいわね、子どもらしくて。楽しそう」

「だよねぇ〜。……あ、レインくんと守護精霊ちゃんは真反対だ。楽しそうだけどお手本みたいな踊りしてる〜」

「……綺麗だけれど、あれでいいのかしら……? お父様とお母様ですら、遊び心があるのに……いえ、凄く楽しそうね。別に良さそう」


 綺麗ではあるが、あれでちゃんと楽しめているのだろうかとリウが心配そうにしていたが、とても楽しそうなレイシェの笑顔が見えてあれでいいのだろうと意見を改めた。

 レインは紳士然とした笑顔を浮かべており、楽しそうとは表現できない表情をしている。

 恐らくは、踊ることよりレイシェの表情を楽しんでいるのだろう。


「……常にあんな感じならまだいいのに」

「常には結構鬱陶しいんじゃない〜……?」

「……鬱陶しいかもしれないけれど、今よりは断然いいと思うの。叫ばれたり、恍惚とした表情で見られたり、妙に甘ったるい声で名前呼ばれたりとか……凄く嫌だもの。それよりマシ」

「あ〜、それもそうだね〜」

「……ふふ。お父様とお母様、楽しそう……あっ、リア!」


 リアがヴェルジアの手を引いて会場の中心へと向かっていくのを見て、リウがぴょこんと跳ねながら目を輝かせた。

 リテアが一瞬固まり、こそこそとレアに何やら囁きかけてから人混みの中へと入っていく。

 恐らく、自分たちが踊るよりも両親が踊る姿を見たかったのだろう。


「……あ。ボク、リテアちゃんのところに行ってくるね〜。二人がはぐれないよう、いつでも助けられるよう近くにいておかないと〜」

「ええ、いってらっしゃい」


 リウがディライトに手を振り、リアとヴェルジアを見た。

 何年も何年も、夫婦として寄り添い合ってきたからか、やはり息はぴったりである。

 その視線はジッとお互いだけを見つめていて、きっともう二人だけの世界に入っている。

 ヴェルジアはもちろんのこと、リアもツンツンしていることはあるが、ヴェルジアのことが大好きだから。

 きっと今も、幸せを噛み締めているのだろう。


「……リアに一途になってくれたらいいのに……」


 リウはちょくちょく口説いてくるヴェルジアにそっとジト目を向けて、息を吐き出した。

 そして、二人のダンスが終わるのを見届けると、リウはそっと中庭に出る。

 涼しい風がその淡い金色の髪とドレスの裾を揺らした。

 会場からの音が遮られ、人もおらず、しんっと静かな中庭。

 そこで、リウは緩やかに振り返った。


「――」

「ふふ。この前リテアを攫おうとした神のお知り合いかしら? 初めまして」


 そこに立っていた人物に、リウはそう挨拶をする。

 見知らぬ神は武器を手にしていて、ジッとリウのことを見つめていた。

 今度はリテアではなく自分が標的なのだろうか、とリウは首を傾げて、にこやかに微笑む。


「こんな楽しい時間に割り込んでくるなんて、品が無いのね。正々堂々……なんてことを言うつもりはないけれど……気に食わないわ」


 少し声を低くしてリウが言うと、神が目を眇めた。

 空気が張り詰めて、ピリピリと肌が粟立つ感覚にリウが口角を吊り上げる。

 リウが聖剣を手にして、構えようとして――そっと、細い手がそれを止めた。

 リウの視界の隅で、白い髪が揺れる。


「……マリーツィア? どうしてここに……」

「ふふっ。ディライトが、会場には入らないって約束できるなら、代わりに敵を倒すのは許すって言ってくれたの。きっとリウちゃんには会えるからって!」

「……体よく利用されているだけじゃ……いえ、なんでもないわ。そう、ディライトの手配なのね。……任せてもいい?」

「ええ、もちろんよ。用事が終わったらすぐに帰るから。楽しんで」


 戦えなかったことに微妙にしょんぼりと肩を落としながら、リウがマリーツィアに手を振って会場に戻った。

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