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魔王様の隠し事  作者: 木に生る猫
番外編
1049/1101

ノルティアナの舞踏会⑲

 舞踏会当日。

 リウは鏡の前に立ち、緊張した面持ちで自分の格好を確認していた。

 しっかりと綺麗に結い上げて、留められた髪。

 ――問題ない。

 シンプルな方が似合う、とメイリーとリーベが施してくれた化粧。

 ――あの二人なら、問題なんてない。

 そして最後に、少し動くとひらりと揺れる、白を基調に、差し色として明るい碧色の入った綺麗なドレス。

 ――大丈夫……


「大丈夫、の、はず……たぶん」


 自信無さげにリウが言い、もう一度ドレスを眺めた。

 普段、リウは暗い色のドレスを好む。

 昔――王女だった頃は、あまり暗い色のドレスを着ることはなかったから、あの頃を思い出さずに済んだからだ。

 逆に、特に白は王女時代、そして聖女としての正装と重なってしまう。

 それでもこれを選んだのは、過去からの脱却を示したかったからだ。


「……よし」


 これからリウが行うのは、簡単な挨拶である。

 身内ばかりで集まった、堅苦しくない、楽しい舞踏会。

 リウは仰々しい挨拶をする必要はなく、ただみんなに見える場所でドレス姿を披露して、歓迎の意を示すだけである。

 リウは最後にもう一度鏡を見て、息を吐き出した。

 大丈夫、きっと大丈夫と頭の中で繰り返して、リウがそっと鏡から離れた。

 ゆっくりと歩いて会場へと続く扉へ向かい、兵士に開けてもらう。

 がやがやとしていた会場が、自然としんと静まり返るのを、リウは感じた。

 変だっただろうか、とリウが不安を押し殺しながら、招待客の表情を見る。

 様々な表情が、そこにある。

 笑顔で迎えるようにこちらを見る者、目を丸くする者――熱に浮かされたように、見惚れるかのように、じっとこちらを見つめる者も多くいる。

 誰も、変だなんて思っている者はいなかった。

 誰一人として。


「……今日は、来てくれてありがとう。この日を無事に迎えられたこと、とても……嬉しく思うわ。……本当に……心から。今回は、個人的に開催したかったものだから……堅苦しい挨拶は抜きにして、これだけを言わせてもらうわ」


 リウがそう言って言葉を区切り、会場にいる参加者を見回した。

 そして、みんなが自分の言葉を待ってくれていることに嬉しそうに微笑んで、声を張り上げる。


「心より歓迎するわ――みんな、楽しみましょう!」


 とびっきりの笑顔を浮かべ、リウが言うとわぁあああっと歓声が上がった。

 それに嬉しそうにして、リウは殺到する人々と挨拶を交わし始めた。



「うぅ、お姉さま……みんな早すぎます。最初から近くにいたのに……」


 それから少しして、リアが挨拶のため顔を見せに来た。

 どうやら、近くにいたのにすぐには挨拶に行けず、少し不満に思っているらしい。


「リア! 可愛い、とっても綺麗ね……」

「えっ、あ……ありがとうございます。お姉さまも綺麗ですよ。似合っています」

「そ、そう? あ、ありがとう……こほんっ、それよりリテアとヴェルジアは? いないの?」

「リテアはレアに挨拶をしに行きましたよ。それから一緒にお姉さまに挨拶をして、それとお父様とお母様のことも探すみたいですね。ヴェルジアはそれを見守っていて、一緒には来れなくて……その、私がそわそわしていたから、見かねて私を先に行かせてくれたんだと思います」

「そう。ふふ、良かったわね。私に会いたくて、そわそわ……してくれたんでしょう……?」


 リウが照れながら尋ねると、リアが笑顔で頷いた。

 そして、その手を取って軽く首を傾げる。


「お姉さま、後で一緒に踊りませんか。子どもの頃は練習も兼ねて、よく踊っていましたけど……成長してからは、そんな機会すら訪れなかったでしょう?」

「……うん、そうね。楽しみに待っているわ。もう少し、話したいところではあるけれど……リア、まだ後ろに人がいるから、また後でね」

「そうですね。また後で、お姉さま」


 離れていくリアに軽く手を振り、リウがリアを見送ってから正面に目を向けた。

 それからまたしばらくすると、レイシェがレインと腕を組みながらリウに近付いてきた。

 あれから、レインは必死になってレイシェから提示された条件を守れると示し、なんとか同行できることになったのだ。

 本番で破ったら即退場だとまだ口酸っぱく言われてはいるが。


『ごきげんよう、リウ。そのドレス、似合っておりますわね!』

「あら、レイシェ。……えへへ……みんなに褒めてもらえるの。そ、そんなに似合ってる?」

『ええ、とっても。……ほら、お兄様。あまり強く手を握られると痛いですわ。挨拶だけならお兄様から話しかけてもいいのですわよ? 最後のチャンス、逃していいんですの?』

「……ッ、……ご、ごめん、ちょっと待って……」

『……そうなるのがわかっていたから、最後尾に並びはしましたが……あまりリウを独占するわけにはいきませんわよ』


 じとりとレインを見ながらレイシェが言うと、レインがこくこくと頷いた。

 そして、何度か深呼吸を繰り返すと、真っ直ぐリウを見つめる。


「……。……何言えばいいと思う?」

「はぁ……形式的な褒め言葉とか……招待してくれたことへの感謝とかじゃないかしら」

「う、うん……こほん。ふぅ……お招きいただきありがとうございます。お似合いです」

『緊張しすぎですわ……』

「別に私は招いていないわ。レイシェが一緒にって呼んだだけ。……まぁ、精々楽しみなさいな。レイシェとは踊るでしょう? それは楽しみにしておくから」

「それは罠じゃない……? 酷いよ……レイシェと躍るのは、楽しみにしてくれていいけど。あ、返事はいいよね……?」

『それは大丈夫ですけれど。……リウ、また後で会いましょう。きっと、まだ挨拶に来ていない方はいらっしゃるでしょう?』


 レイシェがそう言い、去っていくのをリウが小さく手を振って見送った。

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