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魔王様の隠し事  作者: 木に生る猫
番外編
1039/1101

ノルティアナの舞踏会⑨

 一先ずリウへの用事も終わり、レイシェは息を吐き出した。

 そして、真面目な雰囲気を解いて柔らかくリウに向かって微笑む。


『リウ、時間はどれくらいありますかしら? もう少しお話してくださるのでしょう?』

「うん、そうね。えっと……メイリーとの約束は……あら、意外と時間が経ってる……大体二十分くらいね。それくらいなら、好きなだけ話せるわ」

『あっ……先程も、言おうと思っていたのですけれど。わたくしたち、メイリーにも用事があるのですわ。というか、元々はそちらが本題で……ちょうどいいから、リウのところにも寄ろうというお話になったのです』

「あら、そうだったの? ……もしかして、舞踏会用の……?」

『はい。想像していたらいいものが仕上がったから、試着しに着てほしいとメイリーがお手紙で知らせをくださったのですわ』

「あら、まぁ……! ふふっ、今から楽しみね! 時間は? メイリーはあれで結構多忙だから、指定があるはずよね?」


 リウがそう言って首を傾げると、レイシェが頷いた。

 そして、外を見て時間を確かめながら言う。


『たぶん、メイリーはリウにもわたくしのドレス姿について意見をもらうつもりだったのでしょうね。リウと大体同じくらいの時間ですわ。ですからリウ、一緒に行こうと思うのですけれど……』

「ええ、行きましょう! ぜひ一緒に! ……あ、でも、レインもいる……」

「一応言っておくけど、僕も呼ばれてるからね。時間ずらすとかは無理だよ。……あと、ついでに……ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「……なぁに?」


 聞きたいことがある、と口にしておきながら、レインは言いづらそうに口を噤んだ。

 そして、そわそわと視線をあちこちに移しながら、いつもよりも小さな声で言う。


「マリーツィアが……その。天界で……ちょっと……暴れたらしいんだけど、聞いた……?」

「……えっ? 暴れ……えっ!? そ、そんなの聞いていないわ! 本当なの!? どっ、どうして……」

「その……招待状を貰ってないって。厳密に言うと、招待状というよりリウからのお礼の言葉が欲しかったみたい。リテアとか、みんなに配られるのを見て、みんなよりは短くても、何かしらあるんじゃないかって。お礼はなくても、頑張ってるんだからその労いの一言くらいは欲しくて……暴れた、らしくて……その……貰ってない大天使とも結託して」

「うぅ……最近、マリーツィアとも大天使たちとも、あんまり関わってないから……酔ってる頭じゃ、全然思い付かなかった。私のせいで……今からでも間に合うかしら……そうだ、みんな大丈夫なの? 怪我とか……」

「大天使が付いてるし、一応その辺りは加減してる。ん、だけど……なんというか……クーデターごっこ、みたいな」


 レインがとても悩みながらも、マリーツィアたちが行っていることをそう表現した。

 クーデターごっこ、とリウがレインの言葉を繰り返して、わけがわからないと言いたげに首を傾げる。

 戸惑いの浮かぶリウの表情にそれはそうだろうなとレインが苦笑いしつつ、どう説明したものかと頭痛を堪えるような仕草をした。


「えっと、話を聞いて直接見に行ったんだけどね。ディライトが教えに来てくれてたから、転移してもらって……それで、確認してみたら、戦闘こそ起きないんだけど、口頭での攻撃が激しくて……何故か、その……ヴェルジアに文句言ってた……感じ?」

「……なんでそれでクーデターごっこに……?」

「なんか大天使が王を出せとかなんとか言ってる。改革どうのこうのとか……たぶんマリーツィア唆して悪ふざけしてるんだね。大天使なのに」

「……大天使……」

「止めに行くなら付き合うけど……どうするの? ヴェルジアは困ってたけど」

「行かない。レインが止めたいなら送るけれど」


 ふるふると首を横に振ってリウが言うと、レインが意外だと言わんばかりに目を見張った。

 ぱちくり、と紫色の瞳を瞬かせたレインは、心底驚いた顔をしてリウに心配そうな視線を向ける。


「珍しいね。大丈夫? 体調悪い?」

「……はぁ。……大天使のことに、私から関わることは無いわ。行きたいならそう言って。私が関わるのはそこまで。この話はそれで終わり」

「……。……あ、純潔の――」

「ぴぅっ!?」

「『えっ』」


 リウの口から漏れ出た甲高い悲鳴にレインとレイシェが目を丸くした。

 悲鳴を上げたリウは自分の声に驚いた顔をした後、恥ずかしそうに俯く。

 リウは、純潔の大天使にちょっとしたトラウマがある。

 本人に悪意は無いものの、廃人にされ、隅々までお世話をされた経験があるのである。

 それ以降、リウは純潔の気配を少し感じ取るだけでも、あるいは純潔が関わった痕跡のある何かに関わるだけで、悲鳴すら出るようになってしまったのである。

 もちろん、名前もアウトである。

 純潔の大天使を表すものならば――場合によっては、例えそうではなくとも。

 純潔と口にされるだけで、リウはあの日々を思い出してしまうのだ。


「そ……っ、その、名前を……ッ、口に、しないで……っっ」

「すっごい苦しそう。ごめん、忘れてたよ……もうやらない。リウが怖がるようなものはここにはないから、落ち着いて……ね? 紅茶飲んで、ほら」

「んくっ……う、うん……大丈夫……」


 リウがレインから素直に紅茶を受け取り、自分を落ち着かせようとちびちびとそれを飲み始めた。

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