ノルティアナの舞踏会⑦
試着が一区切りしたところで、一先ずの候補を纏めて、リウが自室に帰ってきた。
そして、よろよろと歩いてベッドに近付いていき、ぽすりと沈み込む。
「……疲れたぁ……っ。ぅ〜……」
「おかえりなさい、リウちゃん。紅茶はいるかしら?」
「あ……ごめんなさい、お母様。お見苦しいところを……紅茶は、頂きます」
「いいのよ。少し待っていてね」
むくりとリウが身体を起こし、疲れた顔をしながらもしゃんと背筋を伸ばした。
紅茶の準備を進めながらリーベはそんなリウの姿を眺め、優しくその頭を撫でる。
「リウちゃん、楽にしていいのよ。疲れているのでしょう? 部屋の中では、しっかりリラックスしないと。ね?」
「お母様の前ですから……」
「あら、私の前ではくつろげないの? なら私は、紅茶を淹れたらすぐに行くわね。そうねぇ……戻ってもやることはないでしょうけれど。どうするべきかしら」
「お、お母様……」
困ったように微笑みながらリウがおずおずと姿勢を崩した。
そして、照れたように頬を染めながらも自分の頭を撫でているリーベの手に触れ、嬉しそうに笑う。
「……ふふ、後でお母様と少しお話しましょうか。少し離れるわね、そろそろ紅茶の様子を見ないと」
「はい、お母様。……んんっ……ふぅ」
リウが身体を延ばし、あくびを噛み殺した。
紅茶のカップを手にしたリーベが眠たそうなリウに苦笑いし、紅茶を差し出す。
リウがそれを受け取ってこくりと一口飲んだあと、こてりと首を傾げた。
「それで、お母様。お話というのは……?」
「ああ、別に大切なお話があるとか、そういうことではないのよ。ただ、リウちゃんが疲れているみたいだから、話を聞こうと思って……疲れているのは、仕事が忙しいから?」
「いえ、仕事は落ち着いています。ただ、今日は……舞踏会に着ていくドレスの試着をしていて。まだ決めてもいない上に、大量にありますから……何十着も着て、疲れてしまったんです」
「……全部を着て確かめる必要は無いのよ?」
「わかっています。でも、メイリーの作る服はどれも凄くいいデザインだから……事前に却下できるようなものがほとんど無くて。メイリーは私の好みもわかっていますから、絶対に着ないものは作っていないんです。……露出の多いもの、とか」
リウがそう言ってリーベから目を逸らした。
そして、リウ用ではないようだが、なんだか凄く露出の多かった服がメイリーの仕事部屋に置いてあったのを思い出す。
着させられたくないので何も言わなかったが、あれはなんだったのだろうとリウが眉を寄せる。
「……あんな服、一体誰が着るの……」
「まぁ。そんな服が?」
「あっ……お、お母様、メイリーを責めないでくださいね。下品ではありませんでしたから。ただ少し、大胆なだけで……部屋の隅にあったから、もしかすると、試しに作ってみただけなのかもしれません。……でも、お腹が出るデザインだし……寒そう……着れるのは短い期間だけだってすぐわかるはずなのにどうして……あっ、暑い地域のところの人なら着るのかも……? ……需要があるなら、メイリーに話してみても……着たくないから、誰か抵抗の無さそうな人を…………」
「リウちゃん、リウちゃん。疲れているんでしょう? メモだけしておいて、仕事のことは後回しにしたらどうかしら」
リーベがリウにそう声を掛けると、リウがぱちくりと目を瞬かせた。
そして、ハッとした顔をするとこくりと頷き、紅茶を口に運ぶ。
「そうですね……お母様。そうします。……ん」
リーベがリウの頭を撫でた。
するとリウは甘えるようにその手に擦り寄り、ふにゃふにゃと柔らかく笑う。
「……リウちゃんったら。やっぱり、いつまで経っても甘えん坊なのね?」
「あっ……! い、いえ、そんな……ええと。……普通の子どもほど、ちゃんと甘えられていませんでしたから……仕方ないんです」
「ふふっ、そうね。仕方ないものね」
楽しそうに笑って、リーベはリウの頭を撫で続けた。




