ifストーリー 楽しい学園生活⑩
前話で書き忘れましたが、キャラ紹介を置いておきます。
ヴェルジア
大学生。
二十歳は超えている。
まだ中学生のリアと付き合っているので罪悪感やらはあるが、好きになってしまったものは仕方ないと割り切り、なるべく誠実で潔白な関係を崩さないよう心掛けている。
リアの両親には挨拶済み、リアとも手を繋ぐよりも先には行っていない。
両親は花屋を経営している。
現在一人暮らし、たまに居候しにくる古い知人がいる。
現在、リウとリアはお茶を出され、ヴェルジアが種を持ってくるのを待っていた。
リビングにはたくさんの花が飾られており、とても綺麗だ。
「……なんというか。うっすらとこういう趣味があるとは聞いていたけれど……意外ね。こんなにたくさん……」
「フラワーアレンジメント……でしたっけ。綺麗ですよね。この前貰いました」
「あら、聞いていないわ。そういうの、いつもは話してくれるのに……珍しい。独占欲?」
「にゃっ!? そ、そういうのではありません! もう、お姉さまったら……!」
リアが頬を赤くして目を逸らし、ごにょごにょと小さくリウへの文句を言い始めた。
文句と言っても大したものではないので、可愛らしい照れ隠しにリウはにまにまとその顔を眺める。
と、そんな風にヴェルジアを待っていると、リウのスマホが鳴った。
どうやら電話が来たらしく、リウが確認するとそこにはレインの名前があった。
嫌そうに顔を顰めつつリウが電話に出ると、レインは開口一番に叫ぶ。
『リウ!! 今から迎えに行くね!!?』
「いらない、やめて。うるさいから叫ばないで……」
リウが音量を少し下げつつ頭を抑え、スマホと耳の距離を離した。
あまりにも声が大きくて、少しキーンとしたのである。
なんとなくそれがわかったのか、レインは声量を落とした悲痛な声で言う。
『ごめん、本当にごめん。大丈夫? 鼓膜破れてない? 償うね……』
「そ、そこまでではないけれど。まぁいいわ……それで? 用件は? まぁ、聞かずともわかってはいるけれど……」
『あ、そうだった。何簡単に男の家に入ってるの? 自分の身分理解してる? 良家のご令嬢なんだから、本当にダメだよ。ってことで迎えに行くね?』
「理解くらいしているわよ。ヴェルジアはリアの恋人なのだから、リアと一緒に行くくらいはいいでしょう。伝えてなんかいないのに知っているあなたの方がよっぽど怖いわ」
『ほら、ウチの会社の人くらいどこにでもいるから。ある程度父上と接するような地位の人とか、父上直属の人は僕の恋心も知ってるし、協力してくれるんだよ。何もやましいことなんかしてないよ。怖がらないで。迎えに行くから待っててね』
「怖いし嫌。……中には会ったことがある人もいるでしょうし、男の人に付いていったとなれば、それは心配してレインに連絡するようなこともあるでしょうけれど……私今、ヴェルジアの家だって言ったわよね? どうしてまだ迎えに来ようとするのよ……」
しつこいレインに面倒そうな顔をしつつリウが尋ねると、だってとレインが拗ねた声をした。
どうせただ気に入らないだけだろうとリウが溜息を吐いていると、奥からヴェルジアがやってくる。
「電話? なんかリウが怖いとか言ってるの聞こえたけど、大丈夫……?」
「お気になさらないでください、ヴェルジアさん。騒がしい知人です」
『ああっ今リウのこと呼び捨てにした!!! リアと付き合ってるくせにそんな親しく――』
「切るわね。本当に来たら一週間口利かないから」
『えっ、待っ』
レインが言い切るのも待たずにリウが電話を切った。
そして、マナーモードにするとスマホを鞄にしまい、丁寧にヴェルジアに向かって謝罪をする。
「ごめんなさい、騒がしくて。気を悪くしていないといいのだけれど……」
「ああ……それは別にいいんだけど……本当に大丈夫? 家族じゃないよね……? あ、言いづらいことだったらいいんだけど」
「あー、ええと……知人……クラスメイト……幼馴染よ、うん。幼馴染」
「お姉さまのことが大好きなんです、あの人。あと過激派なんです。この通り、お姉さまは全く好いてなんていませんけど……」
「……ああ。リウがたまに愚痴ってる……なるほど。……こほん、じゃあ改めて……はい、これ。花の種。とりあえず少量でいいよね? リアとはよく会うし、リアがいいならもっと欲しければリアを介してやりとりしようと思うんだけど」
ぽすっ、とリウの手の中に種の入った袋を落としながらヴェルジアが言うと、リウが頷いた。
そして、リウが軽く袋を掲げ、中身を観察する。
「……これは、何の種?」
「ああ。育ててからのお楽しみもいいかなって思って。もちろん、教えてほしいならそうするよ。一応ちゃんと初心者でも育てやすくて、あと室内でも全然大丈夫なやつは選んだけど……どうする?」
「なるほど……! お楽しみ……そういうサプライズは好きよ。このまま聞かずに育てさせてもらうわね。注意点とかはある?」
「うーん……特には? 普通に育てれば咲くよ。あ、でも……虫除けはしっかりね。嫌いなんでしょ?」
「う……そうね、庭師さんにも聞いてみないと……」
「鉢もたぶんあるでしょ。水の量も天気とかによるし、庭師がいるならそっちの方が早いかな。肥料とかも家のを使ってもらった方がいいはず……うん。僕が用意するのは種だけで良さそうかな。……でも、そこを庭師に頼るなら、別に僕から種をもらわなくても……」
「家に植えてあるものは、どれも難しいみたいなの」
「ああ……なるほど。じゃあ……うん、こんなものかな。じゃあこれの対価……お礼についてだけど、育ったら写真でも見せてね」
え、とリウが声を漏らした。
動揺した様子のリウに向かって、ヴェルジアは言う。
「余ってる種を譲っただけで大げさなお礼されても困るよ。高校生にそんなの心苦しいし……だから、写真だけよろしくね。失敗したらその時はまた同じのを譲るよ」
「で、でも」
「甘えましょう、お姉さま。大金とか渡すわけにも行きませんし、高級お菓子とかもそのお礼でヴェルジアさんが破産してしまいます。二人きりでの個人的なお茶とかするのは立場的によくありませんし」
「は、破産って……そこまでじゃないと思うけど……」
「数百万のお菓子を贈られてもそう言えますか?」
「種を譲ったお礼で!?」
「お姉さまはやりますよ。ほら、お姉さま、もう行きましょう。ヴェルジアさん、名越惜しいですが今日はこの辺りで。今日はお姉さまとのデートなので!」
「ああ、ずっと楽しみにしてたよね。楽しんで、できれば今度話でも聞かせて。リウも、また機会があれば話でも」
「え、ええ……本当にいいの?」
「いいから、ほら。リア、お願いだから返せないようなお礼は止めてね……」
ヴェルジアの懇願にリアが頷き、強引にリウをヴェルジアの家から引きずり出した。




