重なり、ぶれる。⑪
そして時は、現在。
ヴェルジアとともにいつも通り天界で眠っていたリアが目を覚まし、目を擦った。
「……あ、リア、おはよう」
「んん……ヴェルジア……? ……おはようございます……」
まだ少し眠そうにしながらリアがヴェルジアにもたれかかり、甘えるようにその手に擦り寄った。
結婚してから何年も何年も経った今、リアはそんな風に甘えることはほとんど無いのでヴェルジアが嬉しそうににやにやと緩んだ笑顔を浮かべながらその頭を撫でる。
「どうしたの、リア? 珍しいね。怖い夢でも見た?」
「リテアじゃないんですから……でも、夢は見ましたよ……昔の夢です。私とヴェルジアの馴れ初め。私がヴェルジアのことを好きになって……告白をして、振られて、そして最後には受け入れられるまでの、夢です。……ふふ、酷い人」
「うっ……あの時の話はあんまりしないでよ……振った直後にまた告白する自分のめちゃくちゃな行動とか、今でも思い出すとちょっと苦しいんだから……リアのこと、泣かせたし」
「ふふっ、そうですね。夢の中の私は、大泣きしていました。情けない部分もありましたが……なんだかんだで、ああして良かったです。泣いてでも引き止めなきゃ、私はきっと、ここにいなかったんですから」
「……ふふ、リアがデレてる」
「茶化さないでください、いつもの態度に戻ってもいいんですか?」
「ああ……それはちょっと勿体無いなぁ」
目を細めてヴェルジアが笑い、リアを抱き締めた。
リアはそれに少しだけ嬉しそうに笑って抱き締め返す。
「……でも、懐かしいなぁ。あのハンカチも……たまに出して眺めると凄く懐かしい気持ちになるし」
「ま、まだ保管しているんですか。下手だから、あんまり見ないでほしいのに……」
「手作り感が本当に可愛くて……ふふっ。リアからもらったものはちゃんと全部保管してあるからね。昔のと並べると成長も感じられるし、隠された意図も見えてくるし。あの告白の時のハンカチと全く同じ模様の刺繍を貰ったときは感動したなぁ……」
「……ん、んんっ! こほんっ……ええっと……そう、昔と言えば……! ヴェルジアからの告白の時の、私……リアの人生とその先を……って台詞。その先ってなんだろうとか、当時は思っていたんですけど……もしかして……」
「ああ……寿命で死んでほしくなかったから、うん……人としての生を超えて、僕の隣にいてもらおうと思って。折角隣にいてくれる人ができたのに、たった数十年でいなくなるなんて……寂しくて、死んじゃうよ……」
「苦しいです。離してください」
ぎゅうっと強く抱き締めてくるヴェルジアに、リアが冷たい声で言った。
そしてもぞもぞとヴェルジアの腕の中から脱出すると、ベッドから降りようとする。
「さて、そろそろ――ひゃっ」
ヴェルジアがそんなリアのお腹に腕を回して引き寄せ、抱き締め直した。
やけに満足そうなヴェルジアを睨み、リアが再び脱出しようと試みる。
「待って、待って。もう少しだけだから」
「そう言いながら何時間も私を離さなかった前科があるんですよ? ぬいぐるみみたいに私を連れ回して……はぁ」
「あれはまたやりたいけど、待って。ね?」
「……なんですか。それと、あれはもう許しません。やられたらお姉さまを呼びます」
「まぁまぁ」
笑顔でヴェルジアがリアを落ち着かせ、向かい合った。
そして、ヴェルジアがリアの背中に腕を回して更に引き寄せる。
「……何をする気かわかりました。ダメです、そろそろリテアが起きる時間なので」
「今日の夜ならいい?」
「ダメです。夜は眠いので」
「……たった数秒で終わることなのに……告白の時は抵抗しなかったのに……」
「いつの話を持ち出しているんですか……とにかくもう起きますから、離してください」
「……」
「あ、ちょっと!」
ヴェルジアが拗ねた顔をして無言でリアを押し倒した。
こういう時のヴェルジアは別に押し倒したとて何もしないのだが、しばらく解放はしてくれないのでリアが暴れる。
「このっ……! ヴェルジア! 離してください! わかりました、今日はリテアはディライトに任せて構ってあげますから! 仕事の最中も隣にいてあげます!」
「……」
「もーっ、面倒くさい人なんですから……! いいから先ずは離して――」
「朝から騒がないで、って……。……えぇ、朝から……? お盛ん、というか……ヴェルくん……」
騒がしかったからか部屋に入ってきたディライトがヴェルジアに若干冷たい視線を向けた。
そして、少し考えたあと、ニヤニヤと笑いながら言う。
「リウちゃんに今日のヴェルくんはケダモノだから近付いちゃダメって言ってこよ〜っと〜!」
「待って違うディライト!? そういうのじゃないから! そういうのじゃないから!! あとリウは絶対言っても不思議そうにするだけだよ!?」
「そういうのじゃなくても、リテアちゃんが見たら絶対勘違いするからね、それ。あと一部の天使。勘違いされそうなことするなら結界張った方がいいよ、ヴェルくん」
「……う、ぐ……」
冷静にディライトに指摘され、ヴェルジアが押し黙った。
その間にリアがディライトに感謝の視線を向けながらヴェルジアから抜け出し、ほっと息を吐く。
「じゃあ、ボクはリウちゃんのところ行ってくるね〜! あ、リテアちゃんはちゃんと見とくから好きにしていいよ〜」
「う……!? 今日のディライトは味方してくれてると思ってたのに……!」
「ケダモノヴェルくんからは一旦逃がしてあげたんだからもういいでしょ〜、妹ちゃん。じゃあね〜」
ディライトが良い笑顔で手を振り、去っていった。
「リア、今日は一緒に居てくれるんだよね。今から仕事するから、部屋行こうか!」
「……はぁ、嬉しそうで何よりです……ベタベタしないでくださいね。あと今日の埋め合わせも近い内にお願いします」
「いいよ、デートでいい?」
「ダメです」
「リウのところにお忍びで」
「わぁ、いつですか? いつなら空いてるんですか!? ヴェルジア!! いつですか!!?」
満面の笑みを浮かべてはしゃぐリアに、ヴェルジアがとても満足そうに微笑んだ。
これにて『重ねて、ぶれる。』は終了です、ありがとうございました!
あまあまイチャイチャが書けて大満足です。
上手く書けたかな……




