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魔王様の隠し事  作者: 木に生る猫
番外編
1013/1101

重なり、ぶれる。⑨

 デート当日。

 城ではなく、良く行くカフェでヴェルジアには待ってもらい、リアはいつもとは違う服装で待ち合わせ場所に急いでいた。

 何度も服装を確認していたら、少し待ち合わせ時間に遅れてしまったのである。

 とはいえ数分の差ではあるのだが、遅れて印象を悪くするわけにはいかないとリアが急ぐ。


「ふぅ、はぁっ……お、お待たせいたしました、ヴェルジア様……」

「……」

「あ、あれ……? ええと……ヴェルジア様? もしかして、怒っていらっしゃいますか……?」


 そうして走って待ち合わせ場所に向かい、ヴェルジアに近付きながらリアが言うが、返事が来ないのでリアがそっとヴェルジアを見上げた。

 すると、怒った顔をするでもなく、ただ固まっているヴェルジアが見えたので、リアが目を丸くして戸惑う。


「ええ、と? ヴェルジア様〜……?」

「……え、あ……ごめん、びっくりして……いつもと雰囲気違うね」

「は、はいっ。雰囲気を変えてみたんです……どうですか? 似合ってますか?」

「綺麗で可愛い……今も似合ってるけど、成長したらもっと似合うだろうね。楽しみ」

「えへへ……じゃあ、ヴェルジア様はどちらがお好みですか?」

「好み? うーん……どっちでも似合うからなぁ……」

「う、嬉しいですが……好みを聞かせてほしいです」

「……どっちも好きだけど……強いて言うなら、綺麗な方……? あ、でも、大人になったら可愛い服は恥ずかしくなって着なくなるかもしれないから、そういう意味では可愛いのを今は着てほしいかも」


 てれりとリアが身体を揺らし、ヴェルジアの手を取った。

 そして、そっとその手を引っ張ると、くすりと微笑んで言う。


「ヴェルジア様。行きましょう、時間が勿体無いですっ」

「……うん」


 微妙に遅い返事にリアが内心でガッツポーズをした。

 両親との相談の際、リアはリーベにギャップで攻めろと言われ、それに従ってみたところ確かな手応えを感じられている。

 これなら行ける、とリアが嬉しそうにヴェルジアの手を握り締めた。


「……あー、リア?」


 と、リアが上機嫌で歩いていると、ヴェルジアから声を掛けられたのできょとんとしながらその顔を見上げる。

 するとヴェルジアは何か言いたげに口元をまごつかせると、ゆっくりと息を吐き出してそっと尋ねてきた。


「無理してない……?」

「え? ……無理……ですか?」

「普段と様子が違うし、それに……疲れた顔してるから。余計な心配だったらごめんね」

「……あ。つ、疲れているのは、その――ま、また後で、ちゃんと話しますから。全然平気ですから、今は楽しみましょう?」

「……本当?」

「ご心配なく。どうしても心配なら、デートが楽しみすぎて中々寝付けなかったとでも思っていてください。あっ、寝てないわけじゃないですよ!」


 ドキドキして中々寝付けなかったのは本当なので、リアがそう言って誤魔化した。

 そして早くデートを楽しもうとヴェルジアの手を引き、ニコニコとデートを開始する。

 先ずは食事、それから買い物をして、綺麗な景色を見て……と、二人で何の変哲もないデートをして、空が茜色に染まってきた頃。

 リアはヴェルジアを人気(ひとけ)の無いところまで誘導し、空を眺めていた。


「……リア、ここは?」

「えへへ……綺麗でしょう。お父様とお母様が教えてくださった、秘密の場所なんです。いつ来ても空がよく見えて、いつでもすっごく綺麗なんですよ!」

「……そう、だね。うん……凄く綺麗。……この景色が見せたくて、こんな人気の無いところまで?」

「……景色も見せたかったのは確か、ですけど……本題はそうではないんです。……わかっていたから聞いたんですよね」

「まぁ、うん。妙に緊張してるしね」


 ヴェルジアが苦笑いしながらそう指摘すると、リアが恥ずかしそうに自分の頬に触れた。

 そしてゆっくりと深呼吸を繰り返すと、碧い瞳でじっとヴェルジアを見上げる。


「……ヴェルジア様。あなたが……好きです。受け取ってください」

「……これは……」

「ハンカチです。ちょっと、下手ですけど……私が刺繍を入れたんですよ」


 ぎゅっと押し付けられるようにして渡されたハンカチをヴェルジアが見て、リアが刺繍を入れたと聞き黙り込んだ。

 そして、どう返事をするか悩んだあと、そっとリアへと視線を送る。

 ヴェルジアの表情を見てか、リアがその顔を曇らせた。


「気持ちは、嬉しいよ。だけど……僕は、受け入れられない」

「……」

「外見上の年齢差もあるし、何より……リルとリアを重ねて、その上で僕はリアのことを好いてしまっているから。真っ直ぐ愛せる自信が無い。きっと、色んなところで無意識にリルと重ねて、比べて……もしかしたら、それを口に出してしまう時もあるかもしれない。……それで、リアに嫌な思いをさせたくないから。だから、受け入れられない……ごめんね」


 ヴェルジアがそう言って、来た道へと数歩歩いた。

 そしてリアを振り向くと、静かな声で言う。


「戻ろう。送っていくよ」

「……」


 返事はしないまま、リアはただ俯いてヴェルジアの方へとゆっくりと足を進めた。

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