重なり、ぶれる。⑧
それから、リアはあまりヴェルジアに迷惑を掛けたくないからと仕事を自重するようになり、未熟な身体に負担をかけるようなことはなくなった。
やるにはやるが、それも両親の手伝い程度で、疲労困憊になることはない。
そうなれば、リアには時間ができ、リアはよくヴェルジアと出かけたり世間話をするようになっていた。
そんな生活を続けて、早数年。
リアは十四歳になり、以前よりも大人びた姿になっていた。
「お父様、お母様。相談があるのですが、聞いていただけますか?」
そして今、リアは夕食の場でレクスとリーベに相談をしようとしていた。
とても困った様子で、指を絡ませながら窺うように言ってくるリアに、レクスとリーベは笑顔でもちろんだと答える。
するとリアは、ぽぅっと頬を染めながら、恥ずかしそうに相談事を明かした。
「ヴェルジア様を落とすには……どうすればいいのでしょう……?」
「んっぐぅ……ッ!?」
「あらあら。ふふ……そう、そんなに好きなのね。でも、時々良い雰囲気になっていたじゃない? 部屋から時々声が聞こえていたわよ。デートも上手く行ってるって話していたのに……ダメそうなの?」
「デートだと!? 私はそんなこと知らないぞ……!? リア、どうしてお父様には――」
「大事な相談なんですっ。乗ってくれないなら、このお話は後でお母様と一緒にお部屋でしますから、そう言ってください」
「………………いや、大丈夫だ。リアの幸せの方が大事だからね……もし、もしもそれで凄く凄くリアが幸せになれるのなら……この国のことも気にすることはないよ。そういう時のために昔からリーベと相談して何も問題が起きないよう備えてきたんだ」
「……お、お父様とお母様は甘すぎます……一応、その、私は……ヴェルジア様と結婚したいだけで……国を治める気はあるんですよ……? ……こほん、話を戻します」
顔を真っ赤にして小さな声で言い、リアが咳払いをした。
そしてどう話すべきか視線を彷徨わせると、緊張した面持ちで話を始める。
「ヴェルジア様からも、好意が無いわけではないと言われています。ただ、一歩足りないみたいで……最近では、子どもの言うことだって思われている感じで……真剣には向き合ってくれないんです」
「……うーん……リアちゃん、その前に……創世神様なら、もしかすると……この会話、聞かれているんじゃないかしら?」
「聞かれるかもしれないので、数日間だけ聞かないようお願いしました。ヴェルジア様は私に甘いので、きっと聞いていないはずです。……その、ヴェルジア様に……今度、お出かけ……デートを提案して……受け入れてくださったので。そこで、何かヴェルジア様の気を引けることをしたいんです!」
リアが真剣な表情でそう言うと、リーベが考え込み始めた。
レクスはリアが真剣にヴェルジアと両想いになろうとしている事実に打ちひしがれ、助けになりたいのにまともに頭が働かなくなっているのでしばらくは頼りにならないだろう。
「……そう、ね。……おめかししましょうか」
「おめかし……ですか? でも、お母様……ヴェルジア様とのデートの時に手を抜いたことはありませんよ……? これ以上、どうしたらいいのか……」
「ふふ、少し言葉が足りなかったわね。より正確に言うなら、方向性を変えたおめかしをしましょう。リアちゃんはもちろん可愛いけれど……綺麗な格好をしても、凄く似合うと思うわ」
「綺麗な格好を……」
「それとも、リアちゃんは創世神様に可愛いと思われたいかしら。綺麗よりも可愛いがいいなら、そっちを優先しようと思うのだけれど……」
「いえ……綺麗って思われるのも、凄く嬉しいと思います。……でも、それだけで……行けるでしょうか?」
「プレゼントはどうだい? 手作りとか喜ばれるんじゃないか? お父様はリアの手作りをもらったら泣いて喜ぶよ」
「……良い案だと思いますが、お父様がもらおうとしていませんか……?」
今は真剣に悩んでいるから自己主張は程々にしてほしい、とリアが少し拗ねた顔をした。
そして、ふぅと息を吐き出すと、自分が何をプレゼントできるか考える。
「私にできるプレゼント……」
「リアは次のデートで成果を得たいのね。でも、焦って一気に色々する必要は無いんじゃないかしら。すぐにはできなくてもいいから、リアがあげたいもの、創世神様が喜びそうなものを時間を掛けて用意するのはどう?」
「……じゃあ……えっと、刺繍を渡したいです。ハンカチに縫い付けて……あんまり、上手にできる気はしませんけど……お母様、手が空いた時に、少しずつでいいので……教えていただけますか?」
「もちろん大丈夫よ。任せて頂戴」
「じゃあ、私はリーベの仕事量が減るよう仕事に集中した方が良さそうだね」
「……いいんですか……? お父様は……私がヴェルジア様と付き合うことを、王としても父としても、良く思ってはいないんじゃ……」
政略結婚の義務が、自分にはある。
受け入れがたくはあるが、それでもリアはそれを理解していた。
だから、リアもとても悩んでいた。
ヴェルジアへの想いに蓋をするべきか、自分の心に正直になるべきか。
それでも出した結論は、自分の心に正直になることだった。
ただ、結婚を受け入れてくれた上で、この国を治めることをヴェルジアが認めてくれるのなら、必ずそうしようとは思っているが。
「……リア。国王としては失格だけどね。お父様は、リアに幸せになってほしいんだ。そのためなら……王女としての義務も、そして私の……自分の感情も、どうでもいい。それは、その感情は……愛しい娘の成長でもあるのだからね。それに、リアが望まない結婚を強いられるよりも、愛する人と結婚した方がお父様も嬉しいんだよ。だから、何も気にすることはない。自分に正直になりなさい」
「……ごめんなさい……ありがとうございます、お父様。……いっぱい、いっぱい頑張って……必ず、良い報告をしますね」
そう言って、リアはそっと嬉しそうに微笑んだ。




