生き埋め
リアが羞恥心で発狂し、アースが現実逃避気味にリウに声をかければ、妹の声真似なら自信があると言い出したリウ。
色々とカオスになってしまったため、リウに引っ付いているアースをシルフが引き剥がし、頭を抱えているリアをリウに押し付けた。
……押し付けたといっても、こうなったときはリウかヴェルジアがリアを癒すしか戻す方法がないからなのだが。
リウから引き剥がされたアースはシルフに甘やかされている。
「リア、大丈夫?」
「ううぅ~、アースくんなんて、アースくんなんてぇ……アースくんが可愛すぎるのが悪いんですよぉ……」
リウの言葉など聞こえていなかった。
声をかけても意味は無いと判断したリウがリアの頭を撫でる。
リアがきょとんとしてリウを見上げた。
そこで目の前にアースが居ないことに気付いたのか、きょろきょろと周りを見回すリア。
そして、シルフに可愛がられているアースを見て頬を膨らませた。
「……アースくん、浮気ですか?」
『は?』
アースとて嫌いだなんだと口では言いつつリアのことは大好きだが、リアの浮気という言葉には思わず疑問の声が漏れた。
訳が分からないという表情をするアースを見てリアが更に頬を膨らませ、腰に手を当てながら口を開く。
「お姉さまのことが好きならそれでも構いませんが、シルフは駄目です。アースくんを甘やかす係は私です。喧嘩する係も私です。アースくん? 浮気ですか? シルフと私、どっちがいいんですか?」
『はぁ……?』
つまり、リアはアースのことを一人で甘やかしたいらしい。
喧嘩友達というポジションは取られることはないだろうが、甘やかし係においてはシルフというライバルが居るためどっちがいいのかと尋ねているらしい。
アースはそんなこと微塵も考えたことがないため、〝何言ってんだコイツ〟的な表情をしている。
「……一緒に甘やかせばいいのに。というかリア、そんな堂々と甘やかしたい発言してるけど今までの態度はもういいの? 飽きた?」
「ハッ! わ、わわわ……あ、アースくんの馬鹿ー!!」
叫びながらリアがどこかへ逃げていった。
リウが首を傾げて逃げていくリアの後ろ姿を見つめる。
『……リウ姉……』
「なぁに?」
『無自覚って、怖い』
「?」
更に首を傾げるリウであった。
◇
逃げていったリアはどうせしばらくすれば立ち直るので気にしないことにして、しばらく4人でがやがやとパーティーを楽しんでいると偶然ディーネと出会った。
ディーネはルリアと一緒にパーティーを楽しんでいたらしく、ルリアと仲良く手を繋いでいる。
『あ、りーちゃん。あのね、ルリちゃん凄いんだよ、高そうな料理に詳しくてね――ってシルフ姉様に兄様たち!? ルリちゃん! ルリちゃんは姉様と兄様に会うの久しぶりだよね!? 挨拶しないと!』
「えっ……えっと、えと……」
ルリアが半歩後ずさった。
そして、おずおずと口を開いた。
「イフにーさま、シルフねーさま、アスにーさま。……久しぶり」
言い終えるなりぷいっとそっぽを向いてしまうルリア。
元々はディーネの双子の妹だったルリアは、もちろん精霊たち全員と姉妹、または兄弟だ。
しかし、悪魔になってからというもの精霊とはほとんど関わってこなかった。
当然、関わりが深い三人と会うこともなかったため、気まずい思いをしているらしい。
『……久しぶりだな、ルリア。リウ様に迷惑はかけていないか』
「っ、ちょっとした悪戯くらいしかしてないよ……!」
顔を赤くしながらもそう言ってイフリートのことを睨み付けるルリア。
それを微笑ましげに眺めつつ、次にシルフがルリアに話しかけた。
『ルリアちゃん。お久しぶりね、元気だった?』
「……まぁ、なにかあったらリウとかリアが気にかけてくれるし、秘書ちゃん……シーアも居るし」
目を逸らしながらルリアが告げれば、シルフはニコニコしながらルリアの頭を撫でた。
頬を赤らめてシルフの手を邪魔だと言わんばかりにルリアが弾き飛ばし、睨み付ける。
『ルリア、なにか悪口を言う人は居なかった? 居たのなら、兄様がそいつを生き埋めにしてあげるよ?』
「……居たけど、アスにーさまの代わりにリウが生き埋めにしてたから大丈夫。殺しはしなかったみたいだけど、リウにボコボコにされて今じゃ立派に国に貢献してくれてるし……」
『そっか、流石リウ姉だね。ボクたちと離れ離れになっちゃって寂しくなかった?』
「うん。しばらくリウが一緒に居てくれたし、他の大悪魔も優しかったから……」
アースは極度のシスコンである。
自分と同じように幼い容姿をしたディーネとルリアには特に。
そして、リウも何気にルリアのことが大好きらしい。
ルリアの陰口を言った者を生き埋めにし、更にボコボコにぶちのめしていることがルリアの言葉から窺える。
しばらく一緒に居たのは、恐らく優しさからだろうが。
『リウ姉、ありがとうね。ルリアのこと守ってくれて』
「ふふ、別にいいのよ。大したことはしてないわ」
そう言ってアースの頭を撫でながら優しく微笑むリウであった。




