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魔王様の隠し事  作者: 木に生る猫
番外編
1009/1101

重なり、ぶれる。⑤

 それから一年後。

 戦争は起こったものの、レクスとリーベの勇者と聖女の力で周辺国は捻じ伏せられ、戦争は早々に終結し、リアも元の平穏な日々を過ごしていた。

 リルが居ないのは寂しいが、安否は常に把握している。

 現状、ヴェルジアがリアとだけは会わないかとリルに提案をしても返答すら拒否されているという状況なので、残念ながらリアにできるのはいつか帰ってきた時のためにリフィードの平穏を保つことだけだった。


「……お父様とお母様に追い出されてしまいました」


 そして、今現在。

 リアはレクスとリーベに城を追い出され、行く宛もなく城下町を歩いていた。

 と言っても、何かやらかしたわけではなく、レクスとリーベが城での仕事を再開できるようになってもいつの間にか疲れ果てるまで仕事をしているので、無理矢理にでも休ませようと追い出された形である。

 部屋に閉じ込めてみても何故か仕事を見つけて部屋で仕事をしているので、仕事から物理的に遠ざけたのだ。


「……うう……門衛さんにも通達されてるから、お城には入れてくれませんし……城下町の道とか、あんまり知らないのに……」

「休むように言われてるのに仕事をするからでしょ?」

「ひゃあ!? ……ヴェルジア様……!? ど、どうしてここに……」

「君の両親に頼まれたからだよ、リア。全く……これまで働き詰めだったんだから、休まないとダメだよ。とりあえず、落ち着ける場所まで行こうか。案内してあげる」

「え、えっ? な、なんでヴェルジア様が……? お、お忙しいのに……?」

「今は世界も安定してるから情報の記録くらいしかやることないよ。リアは城下町にあんまり出ないから、案内役としてね。護衛も必要だし。……それとも、僕じゃダメ?」


 ヴェルジアがリアを見て首を傾げながら尋ねると、リアはおずおずと首を横に振った。

 それを確認したヴェルジアは満足そうに微笑むと、リアに向けて手を差し出す。

 そっと慎重にリアがその手に自分の手を重ねると、ヴェルジアはしっかりとリアの小さな手を握って歩き始めた。


「とりあえず……飲み物を買って。そしたら、人気(ひとけ)の少ないところで、座れた方がいいかな。この近くだと……」

「あ、あの……えっと。……ヴェルジア様は、この辺りに詳しいんですか……?」

「ん? ああ、まぁ、一応そうなるかな。ここに限らず、どこでも案内できるとは思うけど。ふふ、創世神だからね」

「そ……そうなんですか。……あ、あの……ヴェルジア様、はぐれたりしませんから、手を繋ぐのは……」

「ダメだよ、今日は僕が護衛なんだから。恥ずかしいかもしれないけど……ごめんね。二人に絶対はぐれないよう釘も刺されてるし……」

「お、お父様とお母様が? ……うぅ、そ、それなら……恥ずかしいけど……」


 リアがそう言いながら頬を染め、そっと手を握り返した。

 ヴェルジアが微笑ましそうに目を細めながらゆっくりと歩き出し、リアのことを気にしながら周囲を眺める。


「人通りは……そんなに多くないね。大丈夫そう。……あ、リア、歩くのが早すぎたりしたら言ってね。もっとゆっくりにするから」

「あ……大丈夫です。ちょうどいいので……ごめんなさい、私に合わさせてしまって……」

「リアは子どもなんだから、合わせるに決まってるでしょ。それで……行きたいところはある? 適当に僕が選んでもいいかな?」

「行きたいところ……特には、ないです。……どこに行けばいいのかも、わかりませんし……」

「どこで何が売ってるのかは大まかに把握してるから、欲しいものがあれば言ってくれれば案内するよ?」

「欲しいもの……も、特に。……あ、でも……しいて言えば、景色の良いところに行きたいです! 最近はずっとお城にいましたし、仕事をしてたからお庭にも行けなくて、お城の代わり映えしない景色に飽き飽きしていたんです」

「景色の良いところ……わかった、いいよ。でも、その前に飲み物を買おうね」


 ヴェルジアがそう言いながらリアの頭を撫で、日陰に誘導した。

 近くに座る場所がないので、ヴェルジアはそこで待っているよう伝えて飲み物を買いにその場を離れる。


「……はぐれないよう手を繋ぐ、って言ってたのに、結局離してる……」


 リアがそう言いながらヴェルジアに握られていた手を見て、頬を染めた。

 そして、そわそわと身体を揺らし、熱くなった頬を手のひらで包みながら呟く。


「……なんだか……デート、みたい。……えへへ」


 ふんにゃりと微笑みながらリアがヴェルジアを待っていると、すぐにヴェルジアが戻ってきた。

 飲み物を差し出されたのでリアはそっとそれを受け取り、口を付ける。


「……美味しいです。ありがとうございます……あの、ヴェルジア様、これおいくらでしたか……? お父様とお母様からお金はたくさんいただいているので……」

「いいよ、別に。僕はお金なんてどうとでもなるから」

「そ、そんなわけには……! ヴェルジア様にお金を支払わせたなんて知られたら、お父様とお母様に……。……怒られは、しないかも、しれません……けど……」

「でしょ。いいんだよ、僕がやりたくてやったことだから。次は景色の良いところに行くよ。ちょっと歩くけど、大丈夫そう?」

「大丈夫です、お城の中を歩き回っていたのでっ」

「ん、なら疲れたら言ってね。休憩を入れるから」


 ヴェルジアがそう言い、こくりこくりと飲み物を飲むリアを微笑ましそうに眺めた。

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