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魔王様の隠し事  作者: 木に生る猫
番外編
1006/1101

重なり、ぶれる。②

 それから、ヴェルジアは数日に一度リアの様子を見に来るようになっていた。

 必ず一人になったタイミングで来てくれるのはありがたくもあるが、心臓に悪くもありリアは少し不満そうにしている。


「……ヴェルジア様。お姉さまは……今日も……」

「元気だよ。……どうしたの?」

「……ヴェルジア様は、どうして私を気にかけてくださるのですか? 私が、お姉さまの……妹だから……?」


 リアが胸を抑えながら尋ねると、ヴェルジアが黙り込んだ。

 そわそわと視線をあちこちに巡らせるリアを見下ろして、ヴェルジアはそっとしゃがんで視線を合わせる。

 そうすれば、リアはヴェルジアの瞳に視線を固定して、静かに答えを待った。


「そうだね……うん、そうなるね。凄く個人的なことだけど」

「……お姉さまのことを思っての行動ですか?」

「それは……うーん、どうだろう。……無い、と言えば嘘になるけど……個人的なことが大部分を占めてはいる、かな」

「その、個人的なことというのは……?」

「……さて、ね。君にはまだ早いんじゃない?」

「お姉さまへの好意を私に向けているのですか」

「んぐっ、げほっ……!?」


 リアがじっとりとした目で言うと、ヴェルジアがむせた。

 少し息を整えてからヴェルジアが目を丸くしてリアを眺めていると、リアは小さく息を吐く。


「お姉さまはとってもとっても可愛いので、恋をするのは仕方がありません」

「……え、あ、うん」

「でも。お姉さまと私は違う人間です。お姉さまは確かに外見も世界一可愛いですが、お姉さまの可愛いところは内面にこそあるはずです。それなのに、お姉さまと私を重ねるなんて……ヴェルジア様は、お姉さまの外見に惚れていただけなのですか?」

「そういうわけじゃないけど……守るためでもあったし……一応……」

「なら、どうして私を気にするのですか。お姉さまは特別で、私はそうではないのなら、私はヴェルジア様にとって有象無象の一人でしかないはずです」


 リアが言えば、ヴェルジアが言いづらそうに口を噤んだ。

 それを不満そうにじっと見つめて、リアが少しずつ頬を膨らませている。

 やっと見せた子どもらしいところにヴェルジアが和み、ふっと息を吐いて答えた。


「……重ねてることは、否定しない。けど……重ねてるのはあくまでも内面の方であって、外見じゃないよ。そもそも僕がリルに興味を持った切っ掛けは面白いからだしね。もう少し敬ってくれてもいいと思うんだけど」

「……内面……」

「うん。辛いことがあって引きこもってるそういうところだって、同じ。似てるところがたくさんあるから重ねてるだけだよ」

「…………んむぅ……」


 リアが唇を尖らせて目を逸らした。

 内面にも似ている部分がたくさんあると言われ満更でもないらしく、その頬は少し赤く染まり、視線があちこちへと彷徨っている。

 ふわりとドレスを揺らして、リアがキッとヴェルジアを睨んだ。


「そ……そんなことを言われても、私は靡いたりしないんですからね! 私はお姉さま一筋なんですからぁっ」

「……」

「ぴゃ!?」


 ふとヴェルジアがリアの頬に触れると、リアが飛び上がって頭を抱えた。

 小さくなってぷるぷると震えているリアの頭を撫でながら、ヴェルジアは小さく堪えるように、しかし確かな笑い声を漏らす。

 真っ赤になってリアがそんなヴェルジアを見上げ、ぽこぽことヴェルジアを叩いた。


「きゅ、急に何をするんですか! 今のはっ……びっくりしただけですよ!」

「いやぁ、ごめん。可愛くてつい」

「……へ。……や、やっぱり外見もお姉さまと重ねているんですね。そうなんですね!」

「いや、別に外見には拘ってないよ……?」

「!? ……お、おお、大人なのに、私を翻弄して……! 幼気な子どもを虐めて楽しいですか!」

「虐めてないよ。……リルも、照れたら真っ赤になって……リアも真っ赤になる。ふふ、さすが姉妹だね。そっくり」


 ヴェルジアがからかうようにそう言うと、リアが顔を背けた。

 そして、ぺたぺたと頬に触れてなんとか赤みを抑えようとしつつ、徐々にヴェルジアから距離を取る。

 恥ずかしいので、逃げようとしているらしい。


「行っちゃうの? 別にいいけど……もう少し話したかったな」

「……う。……ヴェルジア様……は……ど、どういうおつもりなんですか……?」

「ん? 何が?」

「……本当に、ヴェルジア様は……将来的に、お姉さまを……娶るつもり、だったのなら。……私のことは……」

「ん……うーん。……リルは……変なのに目を付けられやすくて……既にもう、神って存在から切り離せなくなっちゃってるからね。それは僕やディライトが積極的に関わったせいで……責任は取らないといけない。人間じゃリルを守れないしね。だから、娶ることも検討はしてたんだけど……僕のことすら拒んでいる現状じゃ、リルに手は出せない。だからとりあえず、その周辺を守ろうと思ってリアに声を掛けてるのが今。リルのあれは僕よりもディライトが原因だろうし」

「は、はい」


 戸惑いながらリアが頷くのを見て、ヴェルジアが溜息を吐いた。

 そして、悩ましげな表情で言う。


「リアとちゃんと関わったことは無いし……リアとどうこうは……どうかなぁ。それでしか守れないならそうするけど、まぁ感情次第じゃない? 好きなら結婚するよ」

「……? 私とヴェルジア様が恋をする可能性があると言っているように聞こえます……ヴェルジア様は、お姉さまのことが好きなので……それはありえないのでは……?」

「君の前ではっきり好きとか言った記憶は無いんだけどね。それどころかリルの前でも。好意があるのはそうだけど。……それじゃあ、またね、リア」

「あっ、待ってください! さっきの発言の意図は……!?」


 リアが慌てて止めるが、ヴェルジアはそれを聞かずに去っていった。

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