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魔王様の隠し事  作者: 木に生る猫
番外編
1005/1101

重なり、ぶれる。①

リアとヴェルジアの馴れ初めのお話。

新しい話が思い付いたので、学園は暫し中断です。

 とある日、リルが旅立って間もない頃。

 リフィード王国に、報せが届いた。

 王位継承権第一位、聖女の力を持つリフィード王国の第一王女、リルシー・ヴェイル・リフィードが――失踪したと。

 報せを聞いたリアは、酷く狼狽した。

 頻繁に会うことはできないけれど、手紙のやり取りはしようと約束をして。

 長い間寂しくはなるものの、未来で必ず再会して、そして今度はいつでも会えるようになるはずだと、そう信じていたのに。

 最愛の姉は行方知らず、勇者も隠し事ばかりな上に滅多に国にも帰ってこず、手がかりはおろか失踪前の姉の様子すら聞けない日々が続いて。

 報せから、早一年。

 やるべきことを淡々と終わらせたリアは、その日もただただ部屋に引きこもり、ベッドに横になってリルの姿を模したぬいぐるみを抱き締めていた。


「……お姉さま……生きて、いますよね。……生きて……」


 掠れた声で、リアが呟く。

 もし生きているとすれば、お腹を空かせてはいないだろうか。

 不幸な目には遭っていないだろうか。

 いや、もしかすると、既に――と、リアの頭を色んな推測が駆け巡ってはその心を締め付ける。

 浅い息を吐いて、リアが強く強くぬいぐるみを抱きしめた。


「お姉さま……お姉さま……お姉さまぁ……っ、どこに……どこにいるんですか……お願いだから……帰ってきてください……死なないで……生きていて……おねえ、さま……」


 呟きだけが響く部屋の中で、コツンと異音が鳴った。

 リアが身を固くし、そっと顔を上げて音のした方を見る。


「……あなたは……」

「あー、その……大丈夫……では、ないと思うけど……大丈夫?」

「………………創世神、さま。……そう、だ……なんで気付かなかったんでしょう……創世神様なら……」

「それよりも。酷い顔だよ……ずっとまともに眠れてないんじゃないの?」

「私のことなんて、いいんです。今はそれよりも、お姉さまの安否です……お姉さま、お姉さま……お姉さまは、どこに……ッ」


 よろよろとリアが立ち上がり、やってきたヴェルジアの方へと向かう。

 創世神である彼ならば、姉の行方も、安否を知っているはず。

 それで、全てが解決すると。


「……先ずは寝て。そうじゃないと、リルも心配するよ。それからなら……教えてあげられる」

「お姉さまが危ないかもしれないのに、眠れるわけないじゃないですか! いいから教えてください、そのためならなんだってします!」

「……はぁ」


 ヴェルジアがそっと息を吐き、必死の形相のリアを見下ろした。

 そして、そっとその背中に腕を回すと、魔法を発動する。

 するとリアは瞬く間に眠りに落ち、ぽすっとその腕に受け止められた。

 年齢の割に軽い身体にヴェルジアは苦い顔をすると、リアをゆっくりとベッドに運び、布団をかけてやる。


「……どうするべき、かなぁ……」


 一言だけ呟きを零し、ヴェルジアは天界に帰っていった。



 それから数時間後。

 リアが目を覚ましたので、ヴェルジアは再びリアの部屋を訪れていた。

 今はヴェルジアが紅茶を淹れ、リアを落ち着かせたところである。


「……見苦しいところを……お見せしました。申し訳ございません」

「気にしないで。創世神である僕が君の前に姿を現せば、ああなることは想像して然るべきだった」

「……その。……お姉さまは……」

「生きてるよ。今も……怪我も無いし、普通に生活はしてる。……ただ……会うのも、戻るのも、拒絶するかもね。……いや、確実に拒絶する」

「……何が、あったんですか……?」


 リアが眉を寄せながら尋ねると、ヴェルジアが悩むように目を伏せた。

 数秒ほどして息を吐くと、ヴェルジアは口を開く。


「……リルのこと、好き?」

「え……? は、はい……大好きです」

「そう、だよね……そうなんだよね。……リルは、外に出るのを怖がってる。今は……誰にも、どうにもできないよ」

「外に出るのを……? ……創世神様、それは……それは、質問には答えていません。一体何があったんですか」

「……君自身を守るためだよ。リルは元から特別な存在だけど、君は違う。贔屓し過ぎるわけにはいかない。ただ……これだけは保証する。リルは無事だよ」

「……例え、危険に晒されようと。私は……」

「君が死んだら、リルはどれほど悲しむと思う? リルを悲しませたいの?」

「……っ」


 リアが俯いて唇を咬み、数秒ほど経ってから息を吐いた。

 そして、胸元でぎゅっと両手を握り締めながら懇願する。


「それなら、せめて……お姉さまに何か危険や異変があれば、教えてください。……お願いします」

「……それが、凄く大きな変化なら……ね。それでもいいなら、約束する」

「……わかりました。それでも、いいです」


 リアが頷くと、ヴェルジアは優しく微笑むとそっとその頭を撫で、天界へと帰っていった。

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