喧嘩するほど仲がいい
レイルが逃げていったあと、挨拶はしたのだからこれで絡まれることはないだろうと上機嫌でパーティーを楽しんでいたリウ。
しかし、リウは忘れていた。
どこからか祭りのことを嗅ぎ付けて、国認祭に参加している大精霊たちの存在を。
『あら、リウ様』
「ひゃっ……し、シフィ? あぁ、そういえば大精霊も参加してるんだったわね……」
呟き、リウが嫌そうな表情をして笑顔で佇むシルフを見た。
そして、溜め息を吐きながら声をかける。
「なにか用? 私は一人でゆっくりと楽しみたいのだけど?」
『いえ、偶然リウ様をお見かけしましたので。それにしても、リウ様が肩を出すものを着るだなんて珍しいですね?』
「ええ、まぁ。ディーネとはもう会った?」
『いえ……先ほどから探してはいるのですが』
「そう。このドレス、ディーネとお揃いなのよ。見つけたら確認してみたらどうかしら?」
『そうなのですね。では、見つけたら見てみることにします』
シーアと同じくシルフも真面目モードだった。
上手いこと本性を隠して接している。
「……で。後ろの二人も久しぶりね」
リウがシルフの後ろにいる二人にそう声をかけた。
すると、二人の人物が前に出てくる。
一人は燃えるような赤い髪と、同じく燃えるような赤い瞳の青年、炎の大精霊。
そして、もう一人は栗色の髪に同色の瞳の少年、土の大精霊。
二人もディーネやシルフと同じリウの元契約精霊である。
一応、リウは精霊の愛し子であり、精霊に愛される体質なのでこれは普通ではない。
普通は一体の精霊と契約できればいい方である。
基本的に精霊は気紛れであり、それに加えて精霊界に籠っている者も多い。
というわけで、精霊と契約するのはとても難しいことなのだ。
大精霊五体と契約していたリウは色々とおかしいのである。
『わぁーっ! リウ姉久しぶりだねっ! 元気だった? ボクはすっごく元気だよーっ!』
「……アースは相変わらずね。イフリートはよくもまぁこの変人共……んんっ、自由人を纏められるわね?」
イフリートはよく自由過ぎる大精霊たちを纏めている。
喧嘩が起きたときなんかの仲裁役もイフリートだ。
完全なる苦労人ポジションである。
『お久しぶりでございます、リウ様。ディーネやルリアはなにか問題を起こしてはいませんでしょうか?』
「ふふ、大丈夫よ。ディーネはサボるし、ルリアにはよく悪戯されたりはするけれど……まぁ、あの二人だし許容範囲ね」
そう言ってリウが柔らかく微笑むと、イフリートは安堵したように息を吐いた。
そして、自分の胸を叩きながら告げる。
『なにか二人がやらかしたときは、遠慮なく自分にお任せ下さい。慣れていますから』
「ありがとう。最終手段として頭の片隅に置いておくわ」
そう言って、そのままディーネとルリアの愚痴を話し出した二人の間にアースが割り込んだ。
むすりとした表情でイフリートを睨み、リウのことを見る。
『久々の再会なんだから、イフリートにばっかり構わないでよー! ボクだって居るんだよ!? なんでイフリートにばっかり構うのさ! ボクもリウ姉と話したいーっ!』
「あら、嫉妬?」
『な、し、嫉妬なんかじゃ……!』
「ふふ、冗談よ。それにしても、あなたは来てないと思ってたわ。あなた、あんまりこういうお祭りとか参加しないでしょう」
『だって、リウ姉の国のお祭りだし』
顔を赤くしながらアースがそっぽを向いた。
ちなみにアースがリウのことを〝リウ姉〟と呼ぶのは昔のリウがアースのことを弟のように可愛がっており、アースもまたリウのことを姉のように思っていたためいつの間にかリウ姉という呼び名が定着していたのである。
ちなみに、リアとは犬猿の仲……というよりも喧嘩友達のような関係だ。
喧嘩するほど仲がいい、というやつである。
なお本人たちは否定している。
「おやおやぁ~? 弟(仮)のアースくんじゃないですかぁ~!」
噂をすればなんとやら。
ニヤニヤとなんともうざったい表情をしたリアがやってきた。
瞬間、アースがさっとリウの後ろに隠れてリアを睨む。
さりげなくリウに抱きつくのも忘れない。
「むふふ、自称弟の癖にお姉さまのことが好きなアースくん? 自然な感じでお姉さまに抱きつけて嬉しいですかぁ?」
アースの顔が徐々に赤くなっていく。
しかし、後ろにいるアースの様子を理解していないリウが無自覚に爆弾を投下した。
「好きだから、私のことを姉として慕ってるんじゃないの?」
どこまでも純粋なリウにアースが見悶える。
リアはにやにやしながら無言でアースのことを見た。
ここで暴れるわけにも行かず、リアのことをアースが睨み付ける。
「アースくんアースくん、お姉さまに全くもって意識されてない現実を突き付けられて、今どんな気持ちですかぁ~? 私にも教えて下さいよぉ~。ねぇ、ねぇねぇねぇ?」
『……』
アースがとても苛ついている。
なんとなくそれを感じ取ったリウがリアを止めた。
「もう、リアがアースのことを可愛がってるのは分かるけれど、そろそろやめてあげたら?」
「なっ!? べ、別に可愛がってなんてないですよ! と、というか、こんな生意気なの可愛がるわけないじゃないですかっ!」
「でも、前に〝アースくんが可愛すぎてついつい虐めちゃうんですけど嫌われてないですよね……だ、大丈夫かな、今度アースくんが好きなお菓子でも持っていってあげようかな……うん、そうしましょう。アースくんに嫌われるのは耐えられません!〟……とか言ってたじゃない」
妙に上手い声真似をしながらリウがそう告げた。
リアの顔が真っ赤に染まる。
ついでにアースの顔も真っ赤に染まる。
ぷいっとリアが顔を逸らし、ボソボソと呟く。
「べ、別にそんなんじゃないですし……ただお姉さまのことを気遣っただけですし……」
「私、あなたの独り言をたまたま聞いちゃっただけよ?」
「わぁああああー!!」
リアが頭を抱えて発狂してしまった。
そんなリアの姿を見て若干冷静になったアースは、現実逃避気味にリウに話しかける。
『リウ姉、リアの声真似上手だね』
「姉妹だから声質が似てるのよ」
そう言いながらも、リウは思い切りドヤ顔を披露するのだった。




