女王陛下のお帰り
なんだかんだで挨拶回りを終えて、セラフィアの実家に帰ってきたリウ。
なんだかぐったりとしているリウと元気になっているレアを見てネール、ヴァン、セラフィア、フローガの四人は首を傾げたが数分後にはすっかり元気になったリウを見てまぁいいかと思い直した。
その日はセラフィアの実家で過ごし、翌日。
リウ、レア、セラフィア、フローガ、そして長老がこの様々な種族が共に暮らす場所の中心に居た。
リウがしなければならないことがあるからこの場所の中心に連れて行ってほしいと告げたためだ。
「リウ様ー、なにするんですか?」
レアがリウに尋ねた。
リウはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに答える。
「移住してくれる人も居そうだし、荷物を持って私たちの国まで行くのも大変でしょうから〝転移門〟を繋げておこうと思って」
「じゃあ、その〝転移門〟ってなんですか?」
「えーっと……そうね、門を繋ぐともう一つの門がある場所に瞬間移動出来るのよ。誰でも使える設置型の転移系魔法ね。門を作るには魔力が結構必要だし、作れたとしても維持も大変……らしいけれど」
言い方から察するに、リウ的には全然大変じゃないらしい。
リウがおかしいだけである。
「三つとかは作れるんですか?」
「出来るけど、門を通る時にどこに行きたいかを頭の中で選択する必要があるわね。頭の中に、えーと……選択肢みたいなのが出てくるのよ。森とか、国とか。本来はこんなざっくりじゃないけれど」
言い終えると、リウがゆっくりとした動作で目の前に手を翳した。
「〝転移門〟――座標指定、〝再現創造〟」
〝再現創造〟とは、その名の通り対象をコピーして創り出すという魔法である。
本来ならば目の前にコピーした物が現れるのだが、今回はリウが座標を指定したためリウが創ったお城の一室に対象である〝転移門〟が現れている。
魔法までもコピー出来るのはリウだけである。
というか、〝再現創造〟自体が人間ならば魔法使い数十人という規模で扱う魔法なので人間には不可能である。
座標指定だって事前にしておくのならとにかくその場で遠い場所に向かってやるのは難しいのだ。
「リウ様! 凄いです、綺麗です! それに、あの、再現……なんとかっていうの高位の魔法じゃなかったですか!? 詳しくないですけど!」
レアが空色の門を見てなにやら騒ぎ出した。
確かに、キラキラとした空色の粒子の舞う門はどこか神聖さがあって美しい。
レアは魔法名こそ覚えていなかったが、〝再現創造〟のことは知っていたようでそれも興奮に拍車を掛けているようだ。
「ふふ、ありがとう。私が〝創造〟に長けているだけなのだけどね。そうじゃなかったら、集中する必要はあったわ。さて……国に門は繋げたし、帰りましょうか。長老さん、移住をする者が来た際は私のお城の一室に繋がるということを伝えておいてね。もちろん、ここに〝転移門〟があることも通達しておいてね? 任せていいかしら?」
「もちろんですじゃ、リウ様。この度はありがとうございました。純血竜にも移住したい者はたくさんおりました故、期待していて下さると嬉しいですなぁ」
「ふふ、そうね。期待してるわ。……さぁ、三人共。帰るわよ」
リウが笑みを浮かべながらそう告げて、門をくぐった。
◇
一歩踏み出せばもう、その場所は久々にリウが本気を出して創り出したお城だった。
リウが息を吐き、数歩進んでお城の装飾を眺めてちょっと凝りすぎたかな、なんて考えているとリウに続いてレアが勢いよく飛び出してきた。
少しスピードを出しすぎたようで転びかけたところをリウがそっと支え、その現場をすぐに来たらしいセラフィアとフローガに目撃された。
レアはちょっとした失態を両親に微笑ましげに見られて恥ずかしそうな素振りを見せ、リウはお礼を言われて照れたように笑った。
「さて、みんなに帰ってきたことを伝えないとね。えーっと……普通に里に居るわね。とりあえず伝えるだけ伝えましょうか」
そう行ってリウが部屋から出て迷いなく歩いていく。
三人は流石に数回軽く歩いただけのお城の構造なんて分からないので慌ててリウに付いていった。
お城から出れば、外に居た子供たちや洗濯物を干していた人が四人に気付いて他のみんなに知らせていく。
それが伝播して、気が付けば四人は里の住民全員に囲まれていた。
口々にお帰りなさいという声が上がる。
その声はリウにも向けられているようで、それを理解したリウの口元がだらしないほどに緩んでいた。
隣に立っていたフローガが声を張り上げる。
「我らが女王陛下が帰ってきたぞぉおおお!!」
「「「「「「女王陛下万歳!! 女王陛下万歳!!」」」」」」
「じょ、女王……え、えっと、少し来るまでには時間がかかるけど、人材はたくさん確保したわよ! ここに来たら新たな仲間として丁重にお迎えなさい!!」
「「「「「「魔王様万歳!! 魔王様万歳!!」」」」」」
フローガが声を張り上げれば里の住民がリウに向けた歓声を響き渡らせ、初めての配下たちへのサービスとリウが声をかければまたもや大喝采が起きた。
そんな配下たちの様子にリウはふにゃりと頬を綻ばせ、緩みきった口元をそのままに配下に向けて手を振ってあげるのだった。




