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目指せ大願成就!  作者: でがらし
8/30

シャーロット目線ではありません

 やっと見つけた。

 本当にメグを抱きしめられる日が来るとは。

 ああ、長かった。しかしこう抱きしめれば初めて抱きしめた日がまるで昨日の事の様にも感じる。

 歴史の本によれば、あれは160年も前らしい。



△△△△△



「落ち延び下さい!」


 その男、アンドリュー・クラプトンは険しい表情で詰め寄って来た。

 祖父の代からの腹心であったこの海千山千の猛者を以てしても戦況は芳しくないという事だな。


「落ち延びて如何する?第一こう敵に包囲された中で落ち延びるなんて不可能だろう?」


 俺は半ば自暴自棄気味に言い放った。それが精一杯だった。


 今から120年程前に、それまで200年続いた王朝が滅び群雄割拠の時代となった。

 が、それももう終わりを告げる筈だった。


 我がイブリーガ家は元は地方の小さな領主でしかなかったが、梟雄と呼ばれた祖父の代で飛躍を遂げた。

 手段を選ばず勝ち続け、気が付けば一大勢力となっていた。

 後を継いだ父は戦には向かない人で、勢力を維持しつつ内治に努めた。


「民の笑わぬ国に栄え無し」


 父の座右の銘だ。

 父は5年前に世を去ったが、祖父が広げ、父が豊かにした領土を継いだこの俺、レナード・イブリーガ率いる軍は更に勢力を拡大して全国を統一し覇権を手にするまであと少しと迫った。

 祖父が轟かせた武名と、自然に国中に広まった父の評判は非常に効果的で、敵に回せば殲滅させられるが配下に加われば領土が豊かになると、戦わずして配下に加わる諸侯も多かった。


 最後に残った旧王朝の伯爵、デヒア率いる軍勢を打ち破るだけだった。

 

「まさかこの場でこうも次々と裏切られるとはな」


 1度は軍門に下し忠誠を誓った諸侯の軍勢が波を打って裏切るとは予想だにしなかった。

 もはや陣形は体をなしておらず、我が軍は壊滅状態となっている。

 今回の戦は正規軍を温存し、統治後の諸侯の待遇を考課する為の戦とした事が失敗だった。


「下手に捕まって生き恥を晒すよりも、武人の端くれとして打って出る!」


「なりません!我が軍は未だ滅んではおりません。ここに居る兵達は命を捨てる覚悟で戦っております。将たる者が諦めてはなりません!」


 アンドリューの何時にない厳しい声で失いかけていた思考力を取り戻せた。

 そうか。つまらない死に方をしたら命懸けで俺を守って散っていった兵達に合わせる顔が無いな。

 俺はギリギリの所で踏み止まった。


「このアンドリュー・クラプトンが殿(しんがり)を務めます。魔術師隊、前へ!1方向に集中砲火で道を作れ!」


 アンドリューの一声で、まだ残っていた魔術師隊が敵の手薄な方向へ一斉砲撃して一時的だが敵軍勢の真ん中に道が出来た。


「正規軍は大多数が無傷で残っています。城で落ち合いましょう!」


 それだけ言って俺の白い愛馬、フォンテンを魔術師隊が作った道に向けると力任せにその尻を叩く。

 すると放たれた矢の如く、フォンテンは一目散に走り出した。



△△△△△



「ここまで逃げれば大丈夫だろう」


 フォンテンには悪いが、一晩中走ってもらった。

 流石にペースが落ちていたが、距離にするとどの位フォンテンを走らせただろう。

 気が付けば辺り一面農地が広がっている。

 俺自身は追撃の矢を何本か受けた。此処いらで治療もしたい。致命傷ではないが傷は浅くはなさそうだ。

 フォンテンが無傷なのが不幸中の幸いか。

 喉も渇いたし、腹も減った。

 何でも良いから口に入れたい。


「!」


 これは菓子を焼く匂いか!

 芳ばしい香りが嗅覚を刺激する。

 見渡すと数軒の民家からなる集落が在り、その内の1軒の煙突から煙が出ている!


「行こうフォンテン。水と食べ物が貰えれば良いのだが」


 心細さからなのか、俺はいつの間にか馬のフォンテンに話し掛ける様になっていた。

 あの民家で少し休ませて貰えれば、この心細さも解消されるのだろうが、ここはまだ裏切り者の領地だ。

 農家でも油断は出来ない。

 近付くと、中から1人の少女が出て来た。

 まだ10歳くらいだろうか。手には袋を持っている。あの中に菓子が入っているに違いない。

 大人は厄介だが、子供なら何とかなるかも。

 淡い期待を抱き少女に声を掛けてみた。

 

「突然すまない。その袋、中身は菓子か?」


「きゃ!」


 当然ながら少女は驚いている。

 それはそうだろう。俺には追撃を逃れる際に出来た無数の傷が有るし、鎧の背中には数本の矢が刺さったままだ。当然ながら出血もしている。

 そんな男に突然声を掛けられたら誰だって驚くに違いない。


「危害は加えない。昨日から何も食べていないのだ。その菓子を分けて貰えないか?」


「えっ?あの…」


「只とは言わない!これで菓子を分けてもらいたい。そして水を飲ませてもらえないか?」


 俺は金貨を1枚取り出すと、唖然としている少女に強引に握らせた。


「あの、困ります!」


「そこを何とか、頼む!」


 強引に頼み込んでいると、不意に民家のドアが再び開いた。


「妹に何をしているのですか!」


 俺と少女の押し問答に終止符を打ったのは、少女の姉の様だ。

 歳は俺より下で17歳位だろうか。栗色の長い髪を振り乱し、気が強そうに見える。


「驚かせてすまない。俺は押し込みの類ではない。水と何か食べ物を分けて貰えないか?」


「お姉ちゃんこれ、この人が」


 妹が俺の渡した金貨を姉に見せる。姉の表情が一気に引き攣った。


「だから言っただろう。それで水と食べ物を…」


 出血のせいなのか、疲れのせいなのか、言い終わらない内に気が遠くなっていった。

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