只では終わりません
「王太子殿下とヴィクトリア公爵令嬢の婚約は正式に解消された!」
この一報は瞬く間に国中に知れ渡った。
後日、アプリコット男爵家の当主であるお父様、王太子殿下の婚約者に内定のお姉様、そして何故か私の3名は改めて王宮に呼び出された。
そこにはクラプトン公爵を筆頭に国中の貴族が偉い順に並んでいる!
つまり貴族総会!
皆様のお席のレイアウトが私たちを囲む様になっていて、まるで取り調べの様なんですけど!
と思っていると、皆様一斉に立ち上がられて深々と礼をする。
ここは我が家の3名も見様見真似でやってみた。
するとそれが合図かの様なタイミングで国王陛下とお義兄様下が入って来られた。
王族が入っていらっしゃる時にはこうするのね。
勉強にはなるかもだけど、この知識を再び使う機会が無い事を祈ります!
「面を上げよ」
陛下のお言葉で皆様は一斉に頭を上げられ、陛下が手で合図をなされると一斉に着席する。
「集まってもらったのは他でも無い。王太子の婚約者問題だ」
その場ではヴィクトリア様とお義兄様の仲が壊滅的だと説明された。お義兄様にはある程度は悪役になって頂きましたが、本当の事を言う訳にはいかない。
更に証人としてヴィクトリア様ご本人も登場!
「うぅ…」
ある程度の事を言ったれ後はひたすら泣くのは予定通り。この泣きも私たち2人で練習済みだ。
「王太子は意中の者としてマーガレット・アプリコット男爵令嬢を指名した」
ここで皆様の視線が一斉にお姉様に向けられる。
それは好意的であったり、そうで無かったり。
公爵家との縁談が破談になれば、自分の娘をと思っている貴族も少なくない事は理解している。
「苦しゅうない。思う事あらば」
「恐れながら陛下…」
予想はしていたけど、賛成は1部の子爵家と男爵家だけで殆どの貴族が反対している。
理由も異口同音に男爵家って、それしか言えないのかって言いたくなる。
高位貴族しか王族とお付き合い出来ない理由は歴史で習った。
前の王朝が滅びた原因は、お金の力で男爵位を手に入れた者が、娘を国王の愛人にして権勢を振るって国が乱れたからだとか。
その歴史に学んで上位貴族、つまり由緒正しい貴族しか王族のお相手が出来ない事になったと聞いている。
「アプリコット家は元は伯爵家であった!余の曾祖父であるジェームス4世のが、跡継ぎが幼い事を理由に1世代だけ男爵としてその後は伯爵家に戻す約束であったが今まで反故にされていた」
「えっ、そうなの?」
お父様とお姉様は鳩が豆鉄砲をくらった顔を見合わせていますが、勿論そんな事実は無い!
5世が思い付いたアプリコット家伯爵家に復帰の理由をそれっぽく言っただけ。
「しかしながら、それではまるでこの婚礼の為に男爵から伯爵へと」
「宜しいか?」
反対する貴族の言葉を遮ったのはクラプトン公爵閣下、その人であった。
「要はアプリコット男爵が功績を上げれば文句は無い筈。そうであろう?」
永代筆頭公爵に逆らえる貴族は居ない。
「これより婚礼の日までマーガレット・アプリコット男爵令嬢には王太子妃として必要な事を学んで頂く。その妹君には婚礼に相応しい伝説の秘宝を探す旅に出て頂く」
「伝説の秘宝ですか?」
「探し出せば国宝となる。初代様のご婚儀で使われたティアラを探し出せば誰も文句は言えまい。国の何処かに有る失われた国宝をアプリコット家の者が見つけ出すのだから」
「それを私が?」
公爵閣下からまさかのご指名!
しかも直ぐに行かなくてはダメっぽい雰囲気。
「シャーロット様、ご心配無く!」
「ヴィクトリア様!」
「学院を休学中のノートはお任せ下さい!」
「ヴィクトリア様ぁ!」
この土壇場で泣きたくなる様な事を仰る。
「何を言っているヴィクトリア、其方も共をせい!」
「私がですか?」
ヴィクトリア様ともあろうお方が場に似合わない素っ頓狂な声を出して驚かれる。
「そもそも事の発端は其方であろう。何も知らんとでも思っているのか?」
それを言われては何も言えない。
「やはり私たち共同体ですわね。いえ、お友達と言いますか、もはや相棒って感じですわ」
「それでは相棒、参りましょう!」
「頼むぞ、ヴィクトリア、シャーロット。俺とメグが結婚出来るかはお前たちに掛かっている!」
お義兄様、何時になく殊勝だわ。そりゃそうか。私の役目はそれだけ責任重大ね。
「ここだけの話だが、それは前世のお前の遺言で3世が隠したらしい」
お義兄様がそっと耳打ちしたがゾッとする内容だ。
あの3世が前世の私の遺言で隠したのなら、かなり気合いの入った隠し方に違いない。
「ヴィクトリア様、無知で間抜けでどうしようも無く不束者の妹ですが、どうか宜しくお願い致します」
お姉様、少し言い過ぎだと思いますが。
「実は内示がありまして、国境警備隊の隊長として赴任する事になりました。任期は3年です。戻って来ましたら自分と、その、あの」
ジュリアン様、大変光栄ですがそれは今ではないと思います。
あ、いえ、嬉しいのですよ。でもまぁ唐突過ぎて答えに窮します。
そもそもジュリアン様はどうしていらっしゃるのですか?
「兄は子爵位を賜っていますから」
ヴィクトリア様から説明を受ける。
数少ない賛成者でしたのね!
「そうですわ!お兄様は適当な理由を付けて私たちの護衛として同行されては如何でしょうか」
いくら公爵家の嫡男でもそれは無理でしょう。
あっ、でもヴィクトリア様が公爵閣下に掛け合っていらっしゃる。
「私たちの護衛と言う事で許可下りましたわ!」
それで良いのか軍のトップ!
「それでは3人で参りましょう!」
「いきなり過ぎます!ジュリアン様とは取り敢えずお友達から始めさせて頂ければ」
思わず俯く。きっと顔も赤くなっているんだろうな。
「はっ、はい!妹はお友達から相棒になりました。いずれは自分も」
「はいはい、行きますわよ!」
ジュリアン様も緊張した様子。マイペースなのはヴィクトリア様だけ。
こんな調子で国宝探しの旅が始まりますけど、これからどうなるのでしょうか?
恋愛未経験者の私とジュリアン様が恋愛など出来るのでしょうか?
ヴィクトリア様とは同級生から共謀者、運命共同体、お友達、そして相棒となりました。この先は義理の姉妹になると言う大願を成就させる旅にもなります。
そう言えば婚約が破棄された今、ヴィクトリア様は何を願うのでしょうか?
「次の願いはこの旅で探しますわ。何の願いも追い求めない人生なんて私には退屈ですもの!」
また振り回されそうな気がしますけど!
△△△△△
馬車でうたた寝をしていると半年前に旅立った時の事を夢に見た。
実は国宝の在処は出発の日の夢に出て来た3世が教えてくれたけど、敢えて知らない振りをして旅を続ける。
まだ寝ている振りをしてジュリアン様の肩にもたれ掛かる。この幸せな時間が続く事、それが今の私の願いなのだから。
完
最後までお読み頂き、ありがとうございました。




