もう婚約者ではありません
「ヴィクトリア、シャーロット」
朝のホームルームも終わり間もなく授業が始まろうかと言う時、教室の入口でお義兄様が私達を手招きしている。そのお姿には王太子としての威厳は全く無い!
「如何されましたか?」
「今日の授業は受けなくて良い。学院に話は通した。これから一緒に王宮まで来てくれ!」
「これからでございますか?」
余りにも唐突なので私は思わず聞き返した。
「婚約破棄がなるやも知れん。クラプトン公爵、並びにアプリコット男爵も呼んであるそうだ。もちろんメグもだ」
おお!遂にヴィクトリア様との婚約が破棄され、お姉様と婚約されるのですね!
思わず手を取り合い、キャッキャ言って喜ぶ私達!
暇なお父様は兎も角、国防を担ってお忙しいクラプトン公爵までお召しになられるとは、これはもう決まりで間違いないわ!
△△△△△
「苦しゅうない。面を上げよ」
昨晩は先祖たちの霊に囲まれて怯えていた国王陛下も今は威厳を保っておられる。
玉座の前にはクラプトン公爵閣下。お嬢様にはお世話になっておりますって挨拶したかったけど、この場がそれを許さなかった。
それにヴィクトリア様の他にジュリアン様もいらっしゃる。
あれ以来お会いして無いので改めてお会いしますと私も照れてどう対応してよいのか判らない。だけどジュリアン様も挙動不審になっている?
「あ、あの」
「はぁ、はい」
「えーと、そのぉ」
許される範囲で会話を試みるけど、さっきからお互いにこの調子。
もう少ししっかりして頂きたいけど、私も胸の鼓動が早くなって落ち着いていられない!
もっとジュリアン様を見ていたいけど、心臓に悪そうなので控えましょう。
落ち着く為にアプリコット男爵家に目をやると、そこには当主のお父様とお姉様。
クラプトン公爵閣下と比べて我が父の威厳の無さ!
「集まってもらったのは他でも無い。倅ジョセフとヴィクトリア・クラプトン公爵令嬢の婚約についてだ」
来た!これで婚約は破棄されるのね!
「その前に確かめたい事が有る。ジョセフ」
「はっ!」
「昨夜、歴代の国王がワシの夢枕に立った。そこで聞いた事が真ならば、歴代の国王にのみ伝えられた事を其方は知っている筈だ」
それを答えられればお義兄様が初代様の生まれ変わりだと信じる訳ね。どんな難題かしら?
「初代様の名前を答えてみよ!」
「レナード・イブリーガ!」
国王陛下の出題が終わるか終わらないかの内にお義兄様が迷いも無く答えた!
元々の自分の名前だから当然なんだけど。
それにしても初代様の名前が歴史から完全に消されていた理由はこれだったのね!
転生されたお義兄様を見極める為に、歴代国王だけに伝えられていたなんて。
「初代様!」
慌てて玉座から駆け寄って来る国王陛下をお義兄様は涼しい顔して手で制された。
「父上、私は父上の子である事に変わりはございません。ですが戴冠の暁には、レナード2世としたく存じます」
「承知しました。元々はレナード2世の出現までジェームスの直系は代々王位を預かっていただけ。レナード2世に王位をお返し致します」
「ですから、私は父上の息子です。それは何も変わりません」
これでようやく国王陛下も納得されたみたい。
肉体的には自分の息子で間違い無いし、複雑かも知れないけど、良好な関係でいて欲しいな。
「ウム。してクラプトン公爵、ワシは準備が整い次第に隠居する」
「陛下、真でございますか?」
ここで隠居宣言ですか?色々と慌てている人も居ますけど!
「すまぬがジョセフとご令嬢の婚約は無かった事にしてはくれぬか」
「と申されますと」
「恐れながら陛下」
クラプトン公爵の言葉を打ち消す様にヴィクトリア様が割って入った。
「無礼であるぞ」
「よい。発言を許す」
国王陛下より発言の許可を得たヴィクトリア様、公爵閣下の睨みなど全く気にされてなくて、素敵!
「陛下は既にお気付きと存じ上げますが、王太子殿下は初代様の生まれ変わり。となるとその横に立つべきは私ではございません」
ヴィクトリア様は隠す所は隠して事のあらましを語った。
ポカンとしたお父様は兎も角、公爵閣下は納得した様なしない様な感じだったがこの時の閣下はまだ知らない。
今宵、永代筆頭公爵家の礎を築いたアンドリュー・クラプトンが夢枕に立つ事を。




