夢ではありません
「母上、お逢いしとうございました!」
私は父親程の年齢の、立派な髭が特徴的な男に熱く抱擁された。
正確には前世の息子、ジェームス2世の霊ですけどね。
とは言え霊なので物理的には抱き合えない。視覚的にそうするだけだった。霊に触るってゾワゾワするイメージがあったけど、案外そんな事はなかった。
どうも霊媒師によれば、転生していても私だと判るらしい。
「こうしてまた逢えるとは」
こっちは前世で夫だったらしいジェームス1世の霊。
冷たいようで申し訳ありませんが、私には前世の記憶はござませんのでテンションが上がりません。
「シャーロット様、この調子で次々と呼びましょう。さぁ息子さんにお孫さんをお願いして下さい!」
ヴィクトリア様、感動の対面とか言いながら楽しんでいますよね?
「それでは母上、倅も呼びます。彼奴は母上を慕っていましたから、きっと喜んで来ますよ!」
2世がそう言うと、これまたよく似た霊が増えた。
「お、お祖母様!」
どう見ても立派な成人男性の霊から16歳の私が、お祖母様と呼ばれて、熱い抱擁を受ける。
3世はお婆ちゃん子だったのかしら?
「ところでお祖母様、随分とお若い様ですね。転生されたのですか?」
「実は…」
私は事の次第とアプリコット家没落を告げると3世はワナワナと振るえだした。
「愚息を呼び出します…」
3世が絞り出す様に言うとすぐに、これまたよく似た霊が現れる。4世だ。
が、その途端に3世に胸ぐらを掴まれる。
「おい貴様、お祖母様の実家のアプリコット家を男爵へ降格させたそうだな」
「ち、父上?」
「やって良い事と悪い事の区別もつかんのか!」
怒鳴り付けて床に叩きつける!
霊だから痛くはないかもだけど、やはり見るに堪えがたい。
って言うか、まだ何も答えていないのにこれでは4世が可哀想になる。
「ちょっと待って!話を聞きましょう」
「はい!お祖母様!」
4世からは事情を聞くだけで良い。
その上で正すべきは現陛下に行って頂こう!
それにしても3世は私には素直ね!
「アプリコット家で酷いお家騒動が有りました。他の貴族にも毅然と対応しなければならない為、身内同然のアプリコット家には厳しく対処せざるを得ませんでした」
「そうだったのね。身内に厳しいって立派ね」
「その様に育てました。お祖母様!」
「褒めて!」と言わんばかりに3世が空かさずアピールしてくる!筋金入りのお婆ちゃん子だ!
この調子で4世に5世を呼んでもらい、遂に6世まで辿り着いた!
ちなみに一連の事は現国王陛下のベッドサイドで行われている。
つまり、現国王陛下は先祖6人の霊に枕元を囲まれている訳だ!
「起きろ!」
6世が起こしている間に私たち肉体を持つ3人は物陰に隠れる。私達の姿を見られてこれ以上混沌にしたくない。
現陛下が6人の霊に囲まれていらっしゃる姿はまさに壮観!
1国の国王が6人の霊に囲まれてすっかり怯えている。
「父上!これは夢でしょうか?」
「よいか、お前が於かれている立場を説明しよう」
現陛下のお父上で在られる6世が進行役になって始まった。
先ずは陛下にそれぞれを紹介をして、これまでの事を説明する。
当然、お義兄様の事も。
「なんと、ジョセフが初代様の転生された姿という訳ですか?」
「そうだ。だが、運命の相手がアプリコット男爵家の次女だ!」(2世)
「お祖母様の為にも何とかせい!」(3世)
「アプリコット家を男爵にしたワシに気を遣うな!」(4世)
「ならアプリコット家を伯爵に戻してみてはどうじゃ?(5世)
「しかし、如何にアプリコット家とは言え功績のがございませんと」
もっともだけど、陛下にはここでお決め頂かないとならない。
お姉様とお義兄様の為にも、そして何より私自身がギリギリ貴族から抜け出したい!
私は物陰から3世に向かって握った拳を振り上げる素振りを見せた。
「貴様、誰に物を言っておる?野心の有るぽっと出の者が王家に絡む事を防ぐ意味での婚姻相手の制限は理解する。だがな、全てを捨てて転生された大叔父上のお気持ちを何とするか!お祖母様も悲しむ!」
3世、立派よ!お婆ちゃん嬉しい!
「決断せよ!」
「さぁ」
「どうした」
「簡単な事ではないか!」
これを6人の霊に囲まれて言われ続けた陛下は、「仰せのままに」と力無く呟いた。




