お腹を痛めてはおりません
「今宵はシャーロット様も王宮までお願いします」
あれから2カ月、遂にヴィクトリア様が霊媒師を見付け出された。
既に昨晩、2代目国王のジェームス1世を呼び出したそうだが現在の国王陛下は誰?って感じだったらしい。
そりゃあ先祖が突然現れたって判る筈もないでしょう!
「今夜は3代目国王のジェームス2世も呼び出します。ですからシャーロット様も是非!」
「私が王宮へですか?」
「是非ともお越し下さい!」
ジェームス2世を呼び出しても結果は同じだと思うのですが、どうも順番で呼び出さないと不都合があるらしい。
「呼び出したい霊に近しい者が呼ぶか、前に呼んだ霊の紹介が無いと呼び出せない様なのです」
ヴィクトリア様はこう仰られるけど、霊魂の世界って一見さんお断りなの?
ジェームス1世はお義兄様の前世の弟なので呼べたけど、2世は1世の紹介が無いと呼べない。
この調子で先代国王の6世まで呼ぶのでしょうか?
「ヴィクトリア様、私如きでは余程の理由が無ければ王宮へは」
「何を仰るのですかシャーロット様、今宵降臨されるジェームス2世はシャーロット様が前世に於いてお腹を痛めてお産みになられた我が子ではございませんか!」
「はい?」
「100年振りの母子の対面ですよ!涙無くしては見られません!」
お義兄様と違って私にもお姉様にも前世の記憶は無い。
だから感動の対面だろうが何だろうが、私はきっとキョトンとするのが関の山だろう。
だから私では霊を呼べない。
そもそもお腹を痛めて産んだのは前世ですよ!
今世の私は出産はもちろん、キスどころか殿方と手を握った事もないのですから。
そんな期待されても困ります!
「まあ冗談はさておき、アプリコット家は王家と深い繋がりが有る事は判りました。ならば歴代国王のどなたかがアプリコット家没落の原因をご存知なのではないかと思いまして」
さり気なく没落とか仰っていましたが、ヴィクトリア様なりに気を使って下さったのね。
それは確かに気になります。
「詳しくはお茶でも頂きながら、如何でしょうか」
やっぱりヴィクトリア様は頼れるお方ね。
△△△△△
「レオ、お口の周りが汚れています」
「メグは優しいなぁ」
放課後の学院のティールームの光景だ。
優しげな微笑みを絶やさずにお義兄様のお口の周りを拭かれるお姉様と、目を細めてそれを受けていらっしゃるお義兄様。
そしてそれを生温い目で見守る私たち。
ヴィクトリア様はまだ良い、私は身内なので恥ずかしいったらありゃしない!
流石に王太子だと隠し続けられなくなり、お義兄様は身分をお姉様に明かされた。
更にはお姉様にだけレオと呼ぶように言い、態度も畏まらない様に要求した。
お姉様のマイペース振りもあり、お陰で伸び伸びとお付き合い出来る様になりました。ギリギリ貴族に礼儀を求められても困りますしね。
この様な関係を構築すべく奔走した自分を褒めてやりたい!
「はい、アーンして下さい」
「アーン」
ダメだ!
お姉様には頑張って頂きたいけど、この光景は見ちゃいられない!
「ヴィクトリア様、場所を改めましょうか」
「それには及びません」
イチャつく王太子と男爵令嬢。その隣のテーブルではその妹と本来の王太子殿下の御婚約者である公爵令嬢。
端から見れば混沌たる光景だろうな。
「この2カ月の間にアプリコット家につきましても調べました。アプリコット家はシャーロット様の前世の3男が伯爵としてお継ぎになりましたが、どうもジェームス4世の頃に伯爵から男爵となったようです」
「ジェームス4世?」
「シャーロット様の前世の曾孫ですわね」
現在の陛下がジェームス7世なので、6世まで呼び出さなければ本来の目的である婚約破棄とはならないだろうな。
なので必然的に4世も呼ぶ事になるだろう。
ひいお祖母様として懲らしめてやろうかしら。
「シャーロット、眉間にしわ寄せてどうしたの?」
隣のテーブルからお姉様がほんわかと聞いてきた。
「お姉様、私ったら眉間にしわ寄せていましたか?」
「そんな顔していたら、しわくちゃのお祖母様の様にになるわよ」
どうせひいお祖母様ですよ!




