小間使いではありません
「兄上、よくぞご無事で!」
私達が領主様のお城だった建物に入ると、奥の1室でレオを兄上と呼ぶ殿方が私達を迎え入れた。
まるで気品漂う貴公子の様なこの方、レオの弟さんだと言うけどタイプが全然違う。
質実剛健なレオとは違って、とにかく華やか!
女の子なら皆きっと見惚れてしまいそう。私以外は!
「この城、よく落としたな!」
「兄上、相手は留守番しかいません。此方の兵力で囲めば誰でも勝てますよ!如何に僕が戦下手でも」
「此方の損害は?」
「ゼロです。囲んで降伏勧告して終わりでした。もう少しは抵抗すると思ったのですが」
「よくやった。味方の損害を出さない事が大事だ。それでこそ我が弟!」
ここでレオの弟さん、ジェームスさんが私を一瞥、いや二度見した。
「して兄上、妃になられるご令嬢をお連れになると聞きましたが、何処に居られますか?」
「目の前に居るではないか!」
ジェームスさんは小首を傾げながら周囲を見回す。
私の事は視界に入っている筈だけど、義理の姉になる人間とは認識されていないみたい。
「義姉上は何処に?そして何故に小間使いがここに居るですか?」
小間使い? やっぱりそう見えますよね。田舎娘ですから。
「ジェームス様、此方はメグ・アプリコット様と申され、御館様のご婚約者にございます」
先ほどのクラプトンさんが私を紹介してくれたのは良いけれど、私はもうメグ・アプリコット以外の何者でもないのですね。
「兄上、本当ですか?」
「ああ、俺とメグは真実の愛で結ばれている」
「これは失礼を致しました。義姉上」
ジェームスさんはその後はひたすら謝ってくれた。
そこまで謝って下さらなくても結構なのに。田舎娘は本当だし。
「兄上、領主ジョンソンの家族は捕らえてありますが、如何致しましょう?」
「そうだな。本来ならばジョンソン本人は八つ裂き、その家族も処刑か幽閉だが今の俺は機嫌が良い」
とか言いながらレオは領主様が座っていたであろう席に座る。
レオ、そこは多分だけど1番偉い人が座る所よ!
「あと3カ月も有れば国を統一出来る。その後は俺とメグとの婚礼だ。門出を血で汚したくはない」
「恩赦ですか?」
「今考えればだが、奴等が裏切らなければ俺とメグとの運命的な出会いが無かった。それに免じて命だけは助けてやる」
レオが上機嫌で言った。って言うか、そんな大事な事をレオが決めて良いの?
「なりません!御館様に弓引いた者を生かしておけば必ずや災いを呼びます。根絶やしこそ最善かと」
クラプトンさんが凄い剣幕で物騒な事を言う。
「確かにそうだが、着の身着のままで放り出されるんだ。何も出来まい」
レオの強い意志を感じたのか、クラプトンさんは何も言わなくなった。
この威圧感の有るクラプトンさんが黙ると、余計に怖いんですけど。
「以前の兄上なら絶対に根絶やししていました。兄上を変えられたのは義姉上なのですね。兄上の武勇と義姉上の慈愛を併せ持つ世継ぎの誕生が楽しみです!なぁ」
「御意!」
今まで存在を気にしていなかったけど、部屋の壁際には数人の兵士が並んでいた。ジェームスさんが同意を求めると、皆さん大きな声を揃えて答えた。
その光景は圧巻!
「御館様、メグ様にはイブリーガ家当主の妻として、いえイブリーガ王国王妃としての心構えと立ち振る舞いを身に付けて頂きたく存じます」
「王妃?」
思わず声を上げてしまったけど、私が王妃?
信じられないけどレオの言っていたことは本当?
「メグ、我が家の事は言っただろう?」
「あの、まさかあれって本当だったの?国の8割以上を制覇しているだなんて」
冗談だとばかり思っていたわ。
レオがこのまま国を統一したらイブリーガ王国が建国される。
そして私はレオの婚約者。
レオが王様になったら、私は王妃?
子供が産まれて大きくなれば、私の子供が次の王様?
私の頭の中では色々な考えが浮かんでは消える。
あぁ、気が遠くなってきた。
お読み頂きまして有り難うございます。
本作は6月10日に30話で完結します。
最後までお読み頂けましたら幸せです。