お城ではありません
レオの強さは尋常ではなく、地方の町を守る衛兵が束になっても1人で戦うレオの敵ではなかった、
結果として義勇軍は順調に行軍し、これまで進んだ村々からはレオの強さに惹かれた人、イブリーガ軍を知っていた人等が義勇軍に参加して、最初はお父さんと4人のおじいちゃんしか居なかった事が嘘みたい。
「お妃様!」
イブリーガ軍を知っていると言う人達は私をこう呼ぶけど、奥様じゃなくて何でお妃様?
持ち上げ過ぎです。何も出ませんよ!
「この先の町に知り合いが居る者はいるか?」
レオは手を挙げた数人に、先行して義勇軍の噂を広める様に命じた。
この様に噂を前もって流した効果なのか、ここの所の行軍が楽になってきている気がする。
この町の衛兵だって数が増えた義勇軍を見て直ぐに逃げ出すくらいに。
「メグ、もうすぐだ。あと少しで俺の城に連れて行ってやれる」
「お城?」
騎士の隊長よりも上みたいだからお城は言い過ぎだとしても、それなりのお屋敷かもしれない。
でもレオが居ればあばら屋だって構わない!私にはそこがお城だ!
「あれを見ろ!」
次の町を囲む城壁が見えた。でも正面に見える門は閉まっていて、上には数人の兵隊が居る。
噂を広めたデメリットが出たみたい。どうも広めた噂を聞いて臨戦態勢を整えて敵対する気が満々の様で、雰囲気からして物々しい。
「門が開くぞ!」
義勇軍の誰かの声が響くと同時に門が開かれ、中から馬に乗った兵隊が大勢出て来た!
何人なのか、数え切れないくらいに多い!
「くそ、囲まれた!」
また誰かの声が響く。
兵隊達は私たち義勇軍と一定の距離を取って包囲した。
「レオ」
こんな時こそレオを励まさなくちゃと思って見てみれば、レオは頻りに空を見上げている。
えっ?まさか、これは現実逃避?
「レナード・イブリーガ殿、貴殿らは完全に包囲されている。武器を捨て投降して頂きたい」
中央に位置する一際立派な隊長っぽい兵がレオに呼び掛ける。
「貴殿が投降すれば他の者には危害は加えないし、罪にも問わない!」
無駄よ。信念を持って集まった義勇軍がそんな言葉に揺らぐ筈なんて無いわ!
「本当かよ?」
「お前はどうする?」
揺らいでた!
「レオ、如何するの?」
「ああ」
レオは相変わらず遠くの空を見詰めていたが、何かに気が付いたかの様な表情を見せると、義勇兵に激を飛ばす。
「諸君、あそこに居るのが領主たるジョンソンだ!今すぐに武器を放棄すれば罪には問わないと言っているが、諸君はあの男を信じられるか?」
義勇軍の皆は顔を見合わせる。
一様に動揺が隠せていない。
それにしても、あの人が領主様だったのね。
「あの領主は信じるに足る者なのか?あの者が治める地でこの先も暮らしたいか?」
そんな事は聞くまでもなかった。
飢饉の時でも奥方様の宝石を買うとかの浪費の為に増税をしている事は皆が知っている。
誰も領主様を信用なんてしていない。
「諸君は自らの手で世の中を変えたいと思ったから、義勇軍に参加したのではないのか?」
「そうだ!」
義勇軍の誰かから声が上がる。
「日頃は畑を耕すその手で今、未来を耕すのだ!それが出来るのは諸君しかいない!」
「おおっ!」
声が大きくなった!
「確かに、数では負けているが心意気では負けていない。それに助けもすぐに来る!勝機は我等に有る!」
「おお!」
義勇軍は誰一人欠ける事なく、心を1つにして雄叫びを挙げた。
それは良いんだけど、助けがすぐに来るって?
レオが見ていた空を見上げてみてもそこに味方が居る筈も無く、遥か上空を数羽のハゲタカか何かが獲物を探して旋回しているだけだった。
「レナード・イブリーガは人質として使える、生け捕りにしろ!後は皆殺しで構わん!」
剣を抜いた領主様が、攻撃開始の合図として剣を振り下ろしながら叫んだ。
それを合図に、地響きと共に私達を囲んでいた包囲網が縮まろうとした瞬間だった!
ドォオォーン!
何処からか飛んで来た炎の球で領主様の兵隊が次々と焼かれていく!
それと同時に空から目の前まで降りて来たこの生き物はドラゴン?
しかも馬の様に上には人を乗せている!
「間に合わないかと思ったぞ」
1人で笑みを浮かべるレオとは対照的に義勇兵全員が唖然としている。
っていう事は、これが味方?
さっき私がハゲタカだと思ったのは、このドラゴンだったのね!
「遅くなり申し訳ございません。お迎えに参上しました、御館様!」
オヤカタってレオの事?
もしかしたらレオの言う冗談は本当で、実は貴族様なのかとも思ったけど、それなら閣下とか呼ばれると思うし、オヤカタと呼ばれるのなら違うわよね。
大工の棟梁だってそう呼ばれているし!