正気とは思えません
「お姉様、上位クラスは如何でしたか?」
不安だらけの1日が何とか終わり、これからお姉様と徒歩30分の帰路に就く。
流石にお姉様も今日はお疲れの様だ。領内の熊を槍で仕留めた事も有るお姉様がこんなにお疲れになるとは。
尤も私は剣で仕留めた事がありますけど。
「どうもこうも無いわ。早速嫌味を言われたかと思えばクラスの人数が半分になっているし、残られた方々も私の事を腫れ物に触るかの様な扱いになっているの!」
「どういう事ですの?」
「私が教室に入るとすぐに、「分をわきまえろ」ですとか、「貧乏臭い」とか言う方々が居たのよ。男女共に」
「まぁ!」
確かに貧乏だけど、それは無いわ!
「そうしたらあの方が、「すぐに終わるから、暫く外に出ていろ」と仰るのでその言葉に従って大人しく出て戻ってみたら、クラスの人数が半分になっていたのよ!」
大凡の予想は付くけど、念の為に聞いてみる。
「如何されたのでしょうか?」
「分からないの!でもあの方が、「安心しろメグ、お前を虐げる者など俺が許しはしない!」等と仰るのよ」
やっぱり!
王太子殿下、暴走されましたか。それにしても王太子殿下のお姉様への想いは何処からなのでしょうか?
出会った直後から、殿下は感情を爆発させていらっしゃったわ。
一目惚れにしても大袈裟よね?
まるで待ち焦がれていた恋人にでも会ったかの様でもあったけど、正気とは思えないわ。
△△△△△
「マーガレット様、シャーロット様」
校門に差し掛かると後ろから愛らしい声に呼び止められる。
「ヴィクトリア様!」
「お2人をお見掛けして慌てて来ましたの」
今のヴィクトリア様は一段と華々しいわ!
そりゃそうよね。私ではなくてお姉様だけど、ヴィクトリア様の思い描いた通りに事が進んでいるもの。
ヴィクトリア様は今までに無い位の晴れ晴れとした表情だわ。
「マーガレット様、お疲れ様でした。もし宜しければお茶でも」
「折角のお誘いですが、今日は疲れました」
今のお姉様にヴィクトリア様のお相手をする余裕は心身共に無い筈。
「それはいけません!宜しければ馬車でお送り致しましょう!」
とても貴族の屋敷とは思えない当家の屋敷を見られるのは恥ずかしいのですが、疲れ切ったお姉様の事を思えばお言葉に甘えさせて頂こう。
「それには及ばんぞ、ヴィクトリア!」
この自信に満ち溢れた声は、やっぱりあの方よね。
「メグは俺が送って行こう! 妹のシャーロットの方はお前に任せる。友達なのだろう」
王太子殿下は早口で言い切ると奪う様にお姉様の手を取り、そのままの勢いで連れ去ろうとした。
「お待ち下さい!姉の意思は?」
恐れ多いけど、お姉様をお守りする事は妹の役目!
「俺の好意を断る者など居らぬ!」
凄い自信だわ!
「少々よろしいでしょうか?」
その時、私たち姉妹と殿下の間にヴィクトリア様が割って入った。何か思惑会社有るのでしょうか?
「マーガレット様、少々お待ち下さい」
ヴィクトリア様は私の手を取り王太子殿下の側に寄る。
殿下に対してもこの辺の遠慮の無さは長年の婚約者だからこそ成せる業か。
その結果、殿下と私とヴィクトリア様の3人は頭を付け合わせる形になって相談する。
「殿下、マーガレット様にご自身の素性を明かされたのでしょうか?」
「いや、まだだ。メグには素の俺を見て欲しくてな」
「姉には高貴な方と言ってありますが、誤魔化しきれるのでしょうか?」
「シャーロット様、それは殆ど正体を明かしている事と変わらないではありませんか。」
ヴィクトリア様が厳しい口調だわ。でも、まるっきりの嘘はつけなかったのよね。
それにお姉様の大らかな性格を考えると、これくらい大丈夫だと思うわ。
「まあ良い。今の俺はメグにとっては、只の迷惑な奴でしかないだろう」
自覚は有るんだ!
「だがいつの日かメグと必ず結ばれてみせる!」
「殿下、何故それ程までに姉をお想いになられるのでしょうか?」
お姉様は器量好しだと思うけど、そこまで絶世の美女と言う程ではないと思うのだけど。
「叶わなかった恋の続きをしたいだけだ」
ボソッと呟き視線を逸らす殿下は何か物悲しそう。
こういう表情をお姉様にお見せすれば良いのに。
「続き?」
ヴィクトリア様は何か引っ掛かっている様。
「恐れながら殿下、姉は戸惑っております。ご考慮下さい」
普通なら言えない台詞だが、惚れた女の妹なら言える。
「心得た。今日は遠慮しよう」
意外な程あっさりな殿下に拍子抜けしながらも、殿下が猪武者でなかった事に安堵した。
「メグ、また明日会おう!」
そう言い残して殿下は颯爽と去られた。
「私も家で調べ物が有りますので、御免遊ばせ」
ヴィクトリア様も馬車で優雅に行かれた。
後に残されたのは、30分掛けて歩いて帰る私たち姉妹だけ。
屋敷とか見られても恥ずかしいから、全然構わないんですけどね!