本心
あれから美月が来ることは無くなった。
そして俺はというと特に何もなくまたいつものように過ごすよう言われた。
あの時、体から毒は出ていたのか。
美月は大丈夫なのか。
気になることは沢山あったが、なるべく考えないようにした。
そしてしばらく経ったある日の朝。
誰かに体を揺すられた。
優はゆっくり目を開く。
「おはよう、優くん」
そこには、美月の変わらない姿があった。
「美月さん…………」
優は呟く。
「あ、やっと名前で呼んでくれたね?」
そう言ってクスッと笑う。
その笑顔はとても眩しかった。
「いやー大変だったよ、始末書とか何十枚も書かされちゃってさー」
「それより、体の方は……」
「それは大したことなかったから大丈夫だよ」
そう言って美月はVサインをつくる。
大したことなかったということは、体から毒が出ていたということだ。
「ごめんなさい……」
「謝るのは私のほうだよ、いきなりあんな事言ってさ、動揺しない方がおかしいよね」
「けど優くんは感情を押し殺して強い毒が出るのを抑えて私を助けてくれた、本当にありがとう」
美月は頭を下げた。
「やめてください!あの時止まったのは美月さんが声をかけてくれたからで、それがなかったら、俺は……」
「それでも私が助かったのは事実だよ、そんな卑屈にならないで」
優しい言葉
優しい笑顔
みんながしてくれなかったことを美月はしてくれる。
優は美月を信じたくなった。
彼女なら、俺のことを嫌いにならないかもしれない。
けど、怖かった。
このままだと、何か失ってしまう気がした。
「なにか、言いたいんじゃないの?」
また美月に心を見透かされる。
まるでエスパーのようだ。
受け入れて、ほしい。
そして、本心を打ち明けた。
「俺……まだ死にたくないです……」
「うん」
美月はただ聞いててくれた。
「確かに辛い記憶も忘れたい記憶もある、けど全てがそうじゃない、楽しい記憶だって、ある」
「感情を失うのもいやだ……俺の感情で多くの人を傷つけたのは分かっています、けど俺はもっと、笑ったり泣いたりしたい……」
「それが、君の本当の思いなんだね」
そう言って、美月は近づいてくる。
「そうです、俺は人の気も知らないで、わがままで、最低な嫌われ者なんです」
「それでも、俺は俺で、松浦優でいたいんです……!」
そう言うと、美月に優しく抱きしめられた。
「それでもいいんだよ、わがままでもいいんだよ」
優は抱きしめ返す
涙が、溢れ出てくる。
最後に、美月に問う。
「俺は、俺でいいですか……?」
「もちろん」
美月は、受け入れてくれた。
心が満たされていくのを感じる。
それはドロドロとしたどす黒いものじゃなく、サラサラとして透き通っているのが分かる。
「俺……美月さんが好きです」
やがてそれは心という器から溢れ出し
「私は……」
体から、出てくる。
手の力が急に弱まる。
「美月さん…………?」
優も思わず緩める。
すると美月は床に倒れた。
「…………え?」