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感情の毒  作者: 藍乃祐紀
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ビターチョコレート

美月との面談が始まって数ヶ月が経過した。



その間、美月は色んなゲームを持ってきてくれた。



定番のものや、知る人ぞ知るようなものまで沢山遊んだ。



そして会話も弾むようになっていく。



優は段々とこの会話を待ち望むようになっていた。



「今日はね、いい物を持ってきたんだよ」

ある日、部屋に来た美月はカバンから何かを取り出す。



「じゃーん!チョコレートです!」

そう言って小さな袋を優に渡す。

「知ってた?今日はバレンタインなんだよ!さあ食べて食べて!」




優は初めて女性からチョコレートを貰った。

少し照れながらトリュフチョコを口に入れる。




それは思ったよりも甘ったるく感じた。




けど、それがとてもおいしかった。



「ねえ、次は何が食べたい?」

美月が聞いてきた。



優は少し悩んでから答えた。

「そうですね……じゃあカレーが食べたいです」



「カレーかぁ……作ったことないんだよなぁ……」

美月は困った顔をする。



「けどなんでカレーなの?お母さんがよく作ってくれたとか?」

そう言うと、美月はしまったというような顔をした。



なんでカレーって答えたのか。



実は特に意味はなかった。



何を食べたいか聞かれた時にふとカレーを食べている情景が思い浮かんだ、それだけのことだった。



けど優は少しからかってみたくなった。



「そうですね、それもあります」



「へぇー……そうなんだ」

美月は明らかに警戒していた。

「じゃあ私はそろそろ戻るね!バイバイ!」

そしてそそくさと帰ろうとした。



優はその背中に、互いにとって最悪な質問をぶつけた。



「俺の両親はどうしてるんですか」

美月の動きが止まる。



正直どうでもいい事だった。



だが、聞いてみたくなった。



「……知りたいの?」

美月に聞き返される。


「はい、教えて下さい」





「優くんの両親は、もう優くんの両親じゃないよ」





思ったよりあっさりと返されて、反応ができなかった。



「…………………………は?」




「優くんの両親はもう優くんの親権を放棄しているの」

美月はご丁寧に分かりやすく説明してくれた。





「………………そうですか…………」





想定はしていたよ




当たり前のことだよな!




だって何十人も殺した犯罪者の息子なんて要らないと普通思うだろう?



俺だってそう思うはずさ!



しょうがないことだ








けど







やっぱり、どこかで期待している自分がいた。







どす黒くドロドロしたものが心から溢れ出てくるのを感じる。




やがて、サイレンが鳴り始めた。




それは朝起こされる時流されるものよりけたたましい音だったが、全く気にならなかった。



美月は動こうとしない。



優はゆっくり近づく。



もう、抑えることは出来ない。







早く、逃げてくれ────








それは、今までの彼女のイメージからは想像できないほど力強い声だった。



「諦めるな‼︎‼︎」



動きが止まる。



美月が振り返った。



そして、しっかりと見つめてくる。





その目は有馬や藤本とは違う、死の恐怖に怯えてブレた目ではない、真っ直ぐとした目、そして──



「私は優くんの側にいるよ」



どうして、平気なんだ



そんな真っ直ぐな瞳で、そんな優しい言葉をかけられるんだ──










気がつくと、床に座り込んでいた。




頭を下げて、ただ床を見ていた。




ふと顔を上げると、そこに美月の姿はなかった。




今日は最悪のバレンタインだ。




だけど、何か変わったバレンタインになった。

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