トランプ
「ねえねえなんか話そうよ」
そう言って美月が指でツンツンしてくる。
優はドキドキしていた。
けどそれは彼女が結構可愛いからと言うわけでは決して……なくはないが、大きな理由は他にあった。
それは、体から毒が出てしまうのではないかと思っていたからだ。
スピーカーの男によると毒は負の感情が高まることで発生すると聞いていたが、それでもいざ人と接するとなるとやはり心配になってしまう。
なのにこの人ときたら、平気でベタベタ触ってくる!
「あの、ほんとにやめて下さい」
優は小さな声で言う。
これじゃまるで女子の前でキョドる陰キャみたいだな、と思っていたら
「もしかして、優くんってあんまり女子と話したことないの?」
いきなりそう言われたため、優はビックリする。
「な、なんでそう思うんですか……?」
「だって反応が学生の頃クラスにいたおとなしめの男子に似てるんだもん」
確かに女子とはあまり話すことはなかった。
けど、少し傷ついた。
「あ……ごめん、傷つけちゃった?」
美月は謝る。
まるで心が見透かされているかのように感じた。
「いや、別にいいですよ……それよりなんの実験をするんですか」
「実験?もうしてるよ」
優は困惑する。
「この会話が実験とでもいうんですか?」
「そうだよ、私が優くんと喋ったり、遊んだりするのが今回の実験の内容なの」
優は理解した。
(つまり、体から毒が出ると理解した俺が人と接するとどうなるか知りたいのか)
「だからもっとお話ししようよー!」
その様子はまるで子供みたいだった。
「けど話す話題なんて何もないですよ、最近のことは何も知りませんし」
「あ、そっか……それじゃあ……」
そう言って美月は部屋をうろつくと、本を持ってきた。
「トランプでもしよっか」
それは前にトランプと一緒に渡された様々なトランプゲームのルールが乗った本だった。
「じゃあシンプルにババ抜きでもしよっか」
「……まあ、いいですけど」
そして椅子に座り、遊び始めた。
最初は退屈だと思っていたが意外と面白く、結構白熱した。
それから他のゲームもやってみた。
スピード・神経衰弱・ポーカー・ブラックジャック
最初は本を見ながらやっていたが、ルールを覚えると夢中になってやっていた。
今まで1人でやっていたゲームも、それなりに面白かった。
(けど、2人でやるとこんなに面白くなるんだな)
そう思い、少し顔が緩む。
ふと美月の顔を見ると、頬杖をついてこっちを見つめていた。
「やっと笑ってくれた」
そう言って微笑む。
優は顔が赤くなるのを隠そうとした。
「あれ?もしかして照れてる?」
美月はさっきとは違いニヤニヤしながら喋る。
「別に、照れてないですよ……!」
こうして、あっという間に1日が終わった。
今までも1日はあっという間に過ぎていたが、今回はまた違う。
またきて欲しい、そう思えるようなあっという間だった。