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感情の毒  作者: 藍乃祐紀
1/6

接触

無機質な部屋にアラームの音が響く。


「ん……うるさい……」


そう呟いて頭から布団を被るが、単調で不快な音は止まず優は寝るのを諦めて体を起こした。



するとアラームが鳴り止んだ。



そしてベッドから出ると、洗面台で顔を洗い、目を覚まさせた。



「髪が伸びてきたな……」

そう独り言を言うと引き出しからハサミを取り出し雑に切った。



その後歯を磨いていると、天井のスピーカーから男の声が聞こえてきた。

『おはよう、優くん。調子はどうだい?』



口を濯いでから答える。

「最悪ですよ。なんでこんな早く起こす必要があるんですか」



『しかし、君の周りに変化は無さそうだね』




「当たり前じゃないですか、この程度で出してたらもっと多くの人が死んでいましたよ」

優はさらっと言う。



男は何も言わなかった。



沈黙の時間が流れる。



『…………ところで、決心はついたのかな?』

男が沈黙を破り話しかける。



「…………正直、まだついていません」



『そうか、まあなるべく早く結論を出しておいてくれ』



「他に用はありますか?無いんなら寝たいんですけど」

壁に付けられた時計は恐らく朝の方の5時を指していた。



いつもは8時に起こされていたので、3時間も早く起きるのはなかなかにキツかった。



『ああすまない、もう寝てても大丈夫だよ。けど血液の採取は忘れないようにね』



「分かってますよ」



『じゃあ、頼むね』

そう言うと、スピーカーからブツッと切れる音が聞こえた。



「…………なにが頼むだよ……」

優は呟く。



『すまない、ひとつ伝え忘れていた』

また男が話しかけてきたため、優はビクッとなる。



「な、なんですか?」

優はさっきのを聞かれていないか心配になった。



『この後やってもらいたいことがあるんだ、けど今すぐじゃなく8時ごろになったらまた起こすね』



「はあ、分かりました」



『よろしくね』



話は終わったと思ったが、スピーカーは繋がったままだった。



『君の選択によって周りの人だけじゃない、君自身も救われるんだ、逆に言えば周りの人を傷つけ、君自身も傷つくことになるということを改めて肝に銘じといてね』

そう言うと一方的に切れた。



どうやら聞かれてたみたいだ。



「そんなの、分かってる……」



そして優は注射器を持ってくると、腕に刺して血を抜く。



最初は上手くいかず何度も刺して腕を傷つけてしまったが、今は医者のように痛みなく刺すことが出来るようになった。



その注射器を小荷物用のエレベーターに入れて送ると、優はベッドに入り再び眠る準備をした。



ふと、壁に掛けられたカレンダーを見る。



(あれから、もう3年か……)



そして静かに、眠りの中へ落ちていった。









声が聞こえる。



あの男じゃない、女性の声。



やがて声が止むと、今度は体を揺すられた。



薄らと目を開ける。



「あ、起きた?」

目の前に見知らぬ女性の顔があった。



「え…………」

優は固まってしまった。

単調なアラームではなく、人に起こされる、久しぶりの感覚だ。



違う、そうじゃない。



やがて我に帰るとベッドから飛び起き、その女性から距離を取った。



「えー!?なんでそんな嫌がるの?そんな露骨に出されるとショックなんですけど!」

その女性はむっとして口を尖らせる。



「あんた、正気なのか……?」

俺のことを知っている人なら絶対に取らない行動。



混乱した頭で必死に考えた結果、1つの理由が頭に浮かんだ。



「もしかして、アイツらに無理矢理やらされて──」

言い切る前に女性が口を挟んだ。

「違う、これは私の意思でやってるの」

その真剣な眼差しに気圧された優は、何も言えなくなってしまった。



女性は続けて喋る。

「少し、話をしよっか」

その声は、その目とは違い、とても優しかった。







「私は藤波美月、優くんはこれから週に1回私とお話をしてもらいます」



美月は優と向かい合って話す。



「…………」



「どうしたの?大丈夫?」

美月は心配そうに見つめる。



「……俺のこと、怖くないんですか?」

小さな声で言う。



美月は少し悩んだ後、口を開いた。

「怖くなかったって言ったら嘘になるね、うん、怖かったよ、やっぱり」

その言葉を聞いて、優は距離を取ろうとした。



「けど今は違う」



顔を上げる。



「だって君、普通の子供じゃん」

そういって美月は笑う。



誰かの笑う顔。



この3年間、笑う顔を見ることも、することも無かった。



普通のことだけど、懐かしい感覚。




「今まで、辛かったよね」

そう言って美月は優しく手を握ってくる。

優は拒まなかった。



これが、学校で38人を毒殺した松浦優と研究員の藤波美月の最初の接触記録である。

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