未来世界のクローン戦士物語 ☆第七話 マンションと衣服☆
☆その①☆
その日の放課後。
始は掃除当番の組だった。
「じゃあ、校門で待ってるね」
そういって、美優は友達と一緒に教室から出て行った。
悠は、なんとなく美優の姿を追いたくて、思わず後に続こうとするも、三人の女子たちに呼び止められてしまう。
「ね、水鏡くん。水鏡くんって、どこに住んでるの?」
と話しかけられて、意外にも悠は焦った。
(み、美優以外の女の子に こんなに近づいて話しかけられたのなんて、初めてだ…!)
「え…あぁ…」
朝もだけど、笑顔でグイグイくる三人の女子。
(赤沢さんたち、こういうキャラだったんだ…)
始には美優がいるから、特に意識した事はなかった。
別人になって初めて知る、クラスの女子の、意外な一面。
軽く戸惑いながら、そして緊張しつつ、少年は素直に話した。
「え、駅前のマンション だけど…」
「駅前って、ナチュラルヒルズ・エスポワルっ!?」
マンションの名前を聞いた三人が、更にグイと寄って来て、悠はより緊張をする。
「そ、そうだね…」
あらためて実感してのは、顔や髪色だけでなく、身長も少し高くなっている事実。
見た目的にも、始とは完全に別人仕様という事なのだろう。
悠の緊張やら認識やらに、当然気づくことも無く、女子たちはマンションの名前に、素で驚いている。
「あそこって、結構な高級マンションだよね?」
「「「すご~い!」」」
「そ、そうかな…あはは」
女子たちの圧で壁際に追い詰められる悠は、さり気なく逃げるように、カバンを手にして廊下へ脱出。
そんな男子の対策など予想に範囲らしい女子たちは、既に自分のカバンを手にしていて、少年と距離を開けずに付いてきた。
悠と一緒に下駄箱へ向かいつつ、女子たちが大きな声でワイワイしている。
「たしか、地上百二十階でしょ~?」
「エレベーターも、高級オーナー専用のがあるって話だよね~!」
色々とよく知っている女子たちだ。
「いやその…僕はエスポワルの一階フロアだから、そんなに高級でもないと思うよ…」
(組織が用意したマンションだし、僕もよく知らないけど)
ただ、一般住人が知らない特殊スペースがある。という事だけは聞いていた。
「でもでも、並みの一軒家よりずっと、お高いんでしょ?」
「ちょっとアキ、ストレートすぎ~☆」
なんて笑う女子たちに、女子慣れしていない悠は、ただ笑顔で対応するのみだった。
☆その②☆
校門を出て、駅前に向かう四人。
(えっと…確か僕の設定は…)
両親は海外赴任で、悠は現在、一人暮らし。
でも週に何度かは、親戚のおばさんが掃除なんかをしてくれる。
両親には毎日メールをしないと、海外に連れ出されてしまう。
(な、なんだかんだで…必要最低限の設定をほぼ自白させられてしまった…)
女の子って凄い。と、疲労困憊しながら実感する悠であった。
マンション「ナチュラルヒルズ・エスポワル」に到着して、ようやく女子たちから解放される悠。
「それじゃ…また明日」
「「「バイバ~イ♪」」」
「うん、また」
女子たちを見送った悠は、ガラスの正面玄関を潜り、大理石の廊下を自室に向かいつつ、ちょっと夢心地でもあった。
「僕の方が女子にモテるんだな」
そんな小さな優越感でも、始に対して、少し胸がスっとする。
与えられた102号室の鍵を開ける。
「ただいま~。まあ誰もいないけど」
寂しさからか、自分で突っ込んでしまった。
部屋の扉は自動ドアで、室内の扉も住人を認識して作動する。
悠と組織の人間以外では、ロックが掛かって開閉しない防犯設備だ。
部屋はまだ白一色。初めて帰ってきた部屋なので、家具はあるけど生活感は無し。
2LDKの部屋はこざっぱりとしていて、寂しい。
「…………」
制服から普段着に着替えて、部屋のスイッチを音声入力で入れると、天井と壁が光源になって、室内が明るくなった。
真っ白だった壁に壁紙が表示されて、悠は好みで、富士山が見える高原に変更。
「うん、この壁紙 いいなあ」
壁と一体化しているクローゼットを開けて、制服を吊り下げる。
着替えた普段着も、真っ白のパーカーとジーンズ。
悠はクローゼットの鏡を見ながら、懐中時計型のタブレットを弄った。
「服の柄は…」
タブレットから、立体映像で服の柄が表示される。
演歌の筆文字が描かれた模様が表示されると、立体映像を指タッチ。
青く変色をしたパーカーの背中と、濃紺色に染まったジーンズの右側に、大きく演歌の筆書きタイトルが描かれた。
「うん、いい感じだぞ。あ、急がないと!」
悠は室内照明をオフにすると、タブレットを上着のポケットにしまって、自室を後にした。




