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未来世界のクローン戦士物語 ☆第六話 悠の立ち位置☆

 ☆その①☆


 そんな賑わいの中で、悠は人の山の向こう、始の後ろにいる美優に、視線を向けてしまう。

(…美優は事故に遭わなかったんだな…。無事でよかった)

 心の底からホっとした。

 と安堵感を得るものの、なぜだか、視線は合わせられない。

 クローン人間がいますよー。などとおどけてもクラスメイトたちからは失笑されるだけだろうし、何より美優に、心配はかけたくない。

 そんな美優はさっきから、始の事をちょいちょい気にしている様子だ。

(? 僕の方をみてる…? 何か付いてるのかな…)

 もちろん、美優が見ているのは悠ではなく、直線上にいる始である。

 美優はハンカチを取り出すと、始の後頭部を優しく撫でる。

 気づいた始が、振り向いて「どうしたの?」と尋ねると、美優は始の髪に付着していた埃を取ってくれていたと、ハンカチを見せてくれて分かった。

「ありがと、美優」

「ううん」

 微笑ましいヤリトリに、美優の友達はお腹いっぱいという表情。

 そんな光景に、悠の胸がズキんと苦しくなる。

(そうだ……美優はいつもああやって、僕を気にしてくれていたんだ)

 それは、失われた日常を痛みとして感じるには、十分な光景だった。


 少年は今日一日、生まれて初めて他人の視線、悠として、自分と美優を見つめた。

 ノート端末を通じて英語のテストが返されると、始に点数を尋ねる。

 始は、お世辞にも良いとは言えない点数を素直に告げて、ノート端末を見せる。

 そんな始に、美優は優しい。

「帰ったら、一緒に復習しようか」

「うん」

 明るく頷く始。

 二人の友達は、もはや日常であるこのヤリトリに、突っ込む事もしなかった。


 お昼になると、美優は友達とお弁当を食べる前に、始に手作りのお弁当を手渡す。

「はい、始ちゃんの好きな卵焼きが入ってるよ」

「わ、ありがとう」

 そんなヤリトリも日常だから、特に気にする男子も、今さら冷やかす女子もいない。

「愛妻弁当 渡した? じゃ食べよ♪」

 対して悠は、登校時にコンビニで買ってきていたパンを食べる。

 一緒に食べようと誘われたけれど、なんとなく逃げてしまった悠。

 二人の様子を見てしまうと、どうしても胸が苦しくなって、食欲も失せてしまっていた。

(……もう僕には向けられないんだな…美優の、あの優しさは……)


 ☆その②☆


 つい二人を見てしまう悠。

 一緒に昼食を食べている、痩せた黄田が突っ込んできた。

「アハハ、転校生よ 七崎が気になるか?」

 言われて、悠は慌てて否定する。

「え…あ、いや、別に…!」

 始にとっての幼馴染みの、小太りな桃園が諭してくる。

「まー確かに、七崎 可愛いけどさ。まー諦めな。七崎と始の間に入れるヤツなんて、男でも女でも いやしないって」

 そういわれると、悠はあらためて、二人に対する評価が気になったりした。

「そ、そうなんだ?」

「ああ。あいつら幼馴染みだし、ありゃあもう 精神的には夫婦なんだろ。俺も幼馴染みが、いるっちゃーいるけど–」

 悠はつい、耳タコな話題に先走ってしまった。

「ああ、おせっかい焼きだけどお姉さん気取りで見下して明らかにバカにするから萌えないんだよね?」

 先回りなネタ潰しに、桃園は軽く驚いていた。

「…そうだけど、よく知ってんな」

 ハっと焦る悠。

「あ、えっとその……い今みたいに二人の話が出た時に、さ…女子たちが、話してた…よぅな…」

 しどろもどろな悠の言い訳を、桃園は疑わず信じた。

「んだよアイツらよ~。俺の鉄板ネタなのによ~。これだから女のオシャベリは–」

「いやいや、むしろ同じ話ばっかしてるお前が なんだよ~ だって」

 ついにグチりだすのも、そして友達に突っ込まれるのも、鉄板といえば鉄板である。

(ほ…)

 話が逸れて、ホっとする悠であった。


 その後も、授業が終わるまで、横眼でチラチラと二人を気にしてしまう悠。

(あの二人って、本当に仲がいいんだな)

(僕はずっと、あの位置にいたんだ…)

 第三者の目で見て初めて、自分は恵まれていたのだと、寂しさで実感できてしまった。

(いや…僕は僕のクローンだから…誰の立ち位置も変わっていないんだよね…)

 そうは理解していても、まだ納得できない悠であった。

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