未来世界のクローン戦士物語 ☆第五話 少年二人☆
☆その①☆
休み時間になると、転入生である悠は、良く知っているクラスメイトたちからの質問攻めにあわされた。
「なーなー、どこから来たん?」
「えっと……」
(緑川よ、幼稚園から同じ地元だよ)
と、眼鏡の長身男子に、心の中で答える。
「っていうか、水鏡くんって、珍しい苗字だよね~」
「え、あはは」
(僕もまだ慣れてないんだけどね)
と、ヘアバンドが大好きな少女に、やはり心の中で答える。
「この街の五代目ゆるキャラ知ってる? ちょ~っとだけ有名なんだけど~」
「う、うん…まあ…」
(中学の時、みんなと一緒に命名投票 行ったし)
などと、悠は質問に誤魔化すので精いっぱいだ。
そんなクラスメイトたちの中に、始もいる。
さりげな、チラと見るに。
(……どうやら、事故の怪我とかは していないみたいだ…)
などと、ちょっとホっとした。
そんな悠の心情も正体も知らず、始が話しかけて来た。
「ね、水鏡くんは音楽、何が好き? 僕は演歌一筋なんだけど–」
と自分語りの始に対して、拒絶感の現れなのか、悠は言われた途端に言葉を遮ってしまっていた。
「お爺ちゃんの影響だよね。お爺ちゃん、時代遅れな携帯タイプのM・Pにド演歌ばっかり突っ込んで いつも聞いてた–ハっ!」
言ってから「しまった」と気づく。
(ヤ、ヤバいっ…正体…クローンだとか、バレた…っ!?)
恐る恐る周囲を見ると、みなキョトンとしている。
「いや、その–」
取り繕おうとする悠に、始は嬉しさ満点な笑顔を、グっと近づけてきた。
「へえぇ~っ! 水鏡くんのお爺ちゃんも うちのお爺ちゃんと同じで、M・P派なんだ! それで水鏡くんも、演歌好きってわけなんだ! 僕と同じだね~っ!」
「そ、そうだね…」
遺伝子的にもね。
とか、心の中で無駄に突っ込む悠だ。
そんな悠の心情に気づく事なく、始は嬉しそうに握手を求めて来た。
「演歌好きな友達が出来て嬉しいよっ!」
グイグイ来る始を「悪いヤツじゃないな」と、自分の事なのに悠は納得してしまう。
しかし。
「あ、うん…うわっ!」
ギュっと握手をされた瞬間、物凄い嫌悪感というか、不潔な感覚を味わってしまった。
握手が解かれたと同時に、悠はつい視線を逸らし、握手した手をこっそりとズボンで拭う。
(な、なんだろう この…男兄弟の局部に触った みたいな気分……)
クローンゆえの認識なのか。
存在しないはずの自分に対する、悠の感覚であった。
☆その②☆
(いや、そりゃあ コイツも僕も汚くなんてないけど…なんか…)
極限の近親憎悪。みたいな感じがして、悠はそんな自分に、ちょっとゲンナリしてしまう。
始はと言えば、演歌仲間が出来たのが嬉しいらしく、演歌話を振ってくる。
「僕が得意なのはやっぱり誰もが知ってる名曲中の名曲『吾作』だよ! 水鏡くんも、知ってるよね!」
「あ、うん…」
嬉しさを隠さない始を、鬱陶しいと思いながらも、喜ぶ気持ちはよく分かる。
演歌好きが周りにいなくて、何でも聞いてくれる美優以外、演歌について話せるのはお爺ちゃんだけなのだ。
(まあ…うん)
自分の姿に苦笑いをするしかない悠。
始は、気分良く喉を披露し始める。
「吾作ぅはぁ身ぃ~ぅを切ぃるぅう~ はぃはぃひょぅお~ はぃはぃひょぅお~」
クラスメイトの真っただ中で、始はスッカリ浸って小節もフリフリ。
(うぇ…マジか)
自慢の喉は下手の横好きで、気持ち良いのは本人だけという、無自覚の地獄。
周囲の友達は「また始まったか」と、苦笑いしながら耳を塞いでいる。
唯一まともに聴いてくれている美優だけが、楽しそうに頬を染めていた。
そして悠も、恥ずかしいと想いながら、演歌魂がムズムズと刺激をされてしまう。
(ま、まずい…この感じは…っ!)
大好きな演歌。
誰かが歌っていると、自分も歌いたくなってしまう。
しかし。
「うぅ…!」
(ウッカリ歌ってしまったら、さすがに怪しまれて、正体がバレてしまうのでは…っ!?)
そんな悠の苦しみに気づくも事なく、始の歪な喉は、小節を利かせつつ絶好調。
「小ぉ銭ぃに~換ぁえへるよほ~」
耳に聞こえる演歌の誘惑。
しかもヘタだから、余計にこのまま放置してなど、おけなくなる。
(うぅ…っ!あああっ!)
悠はついに立ち上がり、歌も振りも、音痴同士で綺麗にハモってしまった。
「「ちゃりちゃりりひぃいいん ちゃちゃりりひぃぃいいいいいいん」」
(ああ…演歌最高…っ!)
「–ハっ!」
感激してから我に返ると、クラスメイトたちがみな、驚いた視線で悠を注視していた。
(ま、まずい…怪しまれた…っ!?)
悠の背中に、冷や汗がドっと流れる。
どうやって誤魔化せば良いだろうと、脳細胞がフル回転をする。
「えっとそのっ–いまのはあのっ–っ!」
慌てふためく悠に、緑川が指摘をしてくる。
「水鏡、お前……っ!」
「いや違うんだっ、あの–」
「すげード下手だなああっ!」
「……え」
緑川の指摘に、クラスメイトたちもうんうんと納得を見せる。
「うん、私も思った!」
「なのにぃ、真中くんとのハモリのぉ、バッチリ具合とかぁ!」
「すげぇなっ、双子レベルで同じ下手の音痴が並び立ってやがるっ!」
男子たちの突っ込みに、教室中が笑いで包まれた。
言われた始も、呑気に照れ笑い。
(バ、バレなかった…ホ)
悠は、心の底から胸を撫で下していた。




