未来世界のクローン戦士物語 ☆第四話 悠としては☆
☆その①☆
月曜日の学校の、一年B組の教室。
男子は学ランで、女子はブレザーの学校だ。
転入してきた悠は、HRで、小太りな中年男性教師に紹介をされる。
「え~、転入生を紹介しよう。さ、自己紹介を」
初対面ではないどころか、悠の認識ではつい先日まで担任だった先生に、自己紹介を促される。
「……水鏡悠です。よろしくお願いします…」
つい一昨日までのクラスメイトに自己紹介をするのは、なんとも無意味に感じるし、あらためて恥ずかしい気もする。
視線を落として自己紹介を終えると、教室をチラと見渡した。
生徒たちはみな、転入生に珍しげな視線を向けている。
(ああ、赤坂が呆けた顔で窓の外を眺めてる…。おおかた、校庭の女子にでも見惚れているんだ。青山は教科書に夢中なフリして、いつも通りタブレットのマンガを読んでるな…)
悠はさりげなく、そして勇気を必要にしながら、三つ編みの美優と、呑気なメガネの自分を見る。
(…………何ボンヤリしてるんだか、僕は…)
不意に自分と目が合うと、なんだか不思議な気まずさを感じた。
自分が同じ人物であると、見透かされるような気がしてくる。
(…いやいや、僕はそんなに勘が鋭くないでしょ…)
情けなくも、自分のそういうトコロは、よく知ってる少年だ。
担任の先生に促されて、席へと移動。
「では水鏡くん、えっと…後ろの席が空いてるね。あそこを使って」
「は、はい」
静かに席へと向かう悠に、女子たちがなんだかソワソワしているようだ。
「なんか、ちょっと格好良いかも?」
「ちょっと真中くんに似てる? でも断然、良い感じだよね」
(僕の評価…)
女子たちの小声が聞こえてきて、ちょっと恥ずかしいのと、始が話題になるなんて事あるんだなとか、不思議にドキドキした。
指定されのは、一番後ろの廊下側の席だ。
☆その②☆
悠は、指定された席へと向かい、静かに着席。
隣の女子が、親切に声をかけてきてくれた。
「教科書ある? 良かったら、見せてあげましょうか?」
「あ、ど、どうも…」
(ガハハ笑いの春山さんが、ちょっとおしとやかっぽいぞ)
親切と一緒に、アプローチの感じもした。
古文の授業が始まって、コクバンという名のモニターに、例文が書かれる。
若い女性教師が、生徒たちを見回して、転入生を指した。
「それじゃあ ここの現代語訳は…うん、水鏡くん、解るかしら?」
転入生の学力を知っておきたいのだろう。
実は古文は、割と得意な少年でもあった。
なのに。
「は、はいっ–えっと…えっと…」
(ここ、まだ習ってないぞ…?)
どうやら、悠が誕生する三か月の間の授業範囲らしかった。
答えに詰まる悠に、女性教師は笑顔で納得。
「古文は苦手かしら? それじゃあ…真中くん」
「はい」
指された始が立ち上がり、スラスラと答える。
「そこは『まるで紅葉のように赤々と』です」
「はい、正解です」
笑顔の始と、ちょっと落ち込む悠が、同時に着席をする。
(と、得意な古文で偽物に負けるなんて…っ! これも、三か月の差なのか?)
始に対して悔しい想いが募る、悠であった。




