未来世界のクローン戦士物語 ☆第三話 始と美優☆
☆その①☆
「で、だ。宇宙人が送ってくる怪人は、誘拐した地球人をクローニングして改造した怪物だったってワケだ。で、我々もモノにしたテクノロジーで、怪物に対抗できる戦力を手に入れたのだ。それが–」
悠は、認識する。
「つまり、僕、クローン人間…?」
自分を指した悠に、ハチさんが大きく頷く。
「その通り! でだ、宇宙人が送ってくる怪物と戦うには、ある種の因子というか、特殊な遺伝子を強く受け継いでいる個体が必要でな。その所有者のコピーがキミ。つまりキミは、世界を護る為に造られた正義の戦士なのだ! どうだ、誇らしくて嬉しいだろ? 嬉しいよな? そうかそうか、私も嬉しいよ」
ハチさんが、悠の両肩にパンパンと手を置いたり。
もちろん、悠は反論。
「いや、僕は何も言ってませんし、っていうか、その話をどうやって信じろと? その前に僕の顔はどうなったんですか? って言うか、早く家に帰してください!」
少年の反論に、ハチさんはとほほポーズだ。
「なんだなんだ~、最も基本的な現実は理解してなかったのか~。とほほ~」
とか口にしつつ、がっかりポーズを決めた直後に、明るく笑って。
「なら、自分の目で真実を確かめるか。もう普通に歩けるだろ?」
言われて、悠がベッドから起き上がると、用意されていた黒系の服に着替える。
「うむ、よく似合うぞ。さすがは私のセレクトだ」
ご満悦なハチさんに連れられて部屋を出ると、広い廊下を進む。
エレベーターで地下駐車場に降りると、電気ワゴン車に乗せられた。
運転席には、ハチさんと同じような恰好の黒服男性がいて、ハチさんと悠に敬礼をくれる。
「よし、出発してくれ」
二人が乗車をして、ハチさんが命令を下すと、電気ワゴンは地下駐車場から地上の車道へと乗り出した。
積層極薄フィルムの国道を走るエレカは、人工的に作られたエンジン音を響かせつつ、振動も無くスイスイと走る。
空を飛ばないのは、時間的に地上の方が、道が空いているからだそうだ。
夕方に近い昼下がりの国道沿い、並木道では、青葉が夏色に茂り始めている。
悠は、初めて見る並木道なのに、なぜか懐かしく思いつつ、呟く。
「……演歌だったら、夏と男を想う頃だ…」
「ん? 何か言ったかい?」
「いえ」
と誤魔化しつつ、質問をする。
「ところで、どこに連れていかれるんですか? 僕の家ですか?」
ハチさんは、明るく答える。
「ハズレ。ちょうど、キミのオリジナル体と、幼馴染みの少女が、現在絶賛帰宅中との報告だ」
☆その②☆
ハチさんの答えに、一瞬、胸がキュ…と滲む。
「僕と、僕の幼馴染の美優の事ですか?」
「キミのオリジナル体と、始くんの幼馴染みの少女だ」
悠は、周りの景色に気づく。
「僕のうちの近くだ…」
知った景色の中でワゴンエレカが停車をすると、薄暗かったウィンドウがクリア化される。
悠は、ハチさんに指示された方向を見る。
「……ぇ……」
視線を向けた反対車線越しの歩道では、始と、幼馴染みの美優が、いつも通りに並んで帰宅をしていた。
悠は、その光景に混乱をする。
「な…何ですか、あれ…?」
ハチさんは明るく、しかし真面目なトーンで答えた。
「さっきも話した通り、キミのオリジナル体である真中始少年と、幼馴染みの七咲美憂くんだ。始少年は数少ない、因子を持つ大切なオリジナル体だから、我々組織が密かに、家族まとめて二十四時間体制で監視&護衛をしているのさ」
ハチさんは、ちょっとおとぼけで続ける。
「だからまぁ アレだ。偶発的とはいえ始少年が交通事故に遭ったときはもう、オジさんたち顔面蒼白っ! 警備の何人かは左遷された程の、そりゃあもう大騒ぎさ。だったんだぜぇ~。ハハハ」
そんなハチさんの言葉が、全く頭に入らない悠だ。
反対車線の歩道をノンビリと歩いている二人は、何かオシャベリしながら歩いている。
始の方が歩くのが速いらしく、美優はトコトコと早歩きぎみ。
悠は、現実の認識が追い付かず、動揺を隠せなかった。
「そ、そんな…」
(あれはたしかに 自分たちだ…なんていうか…か、感覚で解る…でも…!)
自覚する現実に、しかし意識は抵抗をしてしまう。
「な、何ですか、手が込んでるなあ。あんな偽物まで用意して…っ! そんなに僕を騙したって、面白くなんて、ないですよ…っ!」
あ、感情的に言っている。
そんな自覚も、残酷だけどあった。
悠の反応は、ハチさんたちにとって何度も経験しているし、想定内である。
「ふむ。ではキミ自身で納得して貰おう。そう、明日から始少年と同じ学校に通うってのは、どうだい? イェイ」
「……はああああああああああ?」
悠は、驚くしかなかった。




