未来世界のクローン戦士物語 ☆第一話 悠(はるか)の目覚め☆
☆その①☆
「んん…?」
メガネをかけていない始に少し似た少年が、目を覚ますと、天井が真っ白な室内だった。
少年の面立ちは、やや切れ長な目に高い鼻筋と、ちょっとハーフっぽい感じ。
頭髪は完全に真っ黒で、濃い栗毛色だった始とは違っていた。
意識が覚醒してくると、白い部屋で白いベッドに寝かされていると解る。
首を動かして周囲を見ると、空調が完備された部屋に窓はなく、光源は照明として機能している天井だけ。
「どこだろ、ここ…?」
身を起こしながら記憶を辿ると、トラックが自分に接近してくる恐ろしい光景が蘇る。
「…そうだ。たしか僕は、トラックにはねられて…」
無意識に身体を確かめるものの、ケガらしい箇所はどこにもない。
手足には、電極のようなコードが繋がっている。
ハッキリとする視界に対して、顔に違和感を感じて、触ってみる。
「……あれ? メガネ着けてないのに、よく見える…?」
不思議だけど、それよりも手足のコードがくすぐったくてイヤだと感じた。
電極を外そうとしたら、自動ドアがシュっと軽い音を立てて開き、一人の男性が入ってくる。
やや高い細身な体躯を黒いスーツに包み、頭髪をオールバックに纏めた、サングラスの中年男性だ。
一件すると怖そうな黒服の男性は、ちょっと低い声で、明るく話しかけてくる。
「やぁやぁ、お目覚めのようだね少年。イェイ」
サムズアップで挨拶をくれながら、男性はサングラスの下で、精いっぱい明るく作った笑顔を見せていた。
少年は、そつのない質問をする。
「あの、お医者さん…ですか?」
きわめて常識的な質問に、男性はヤレヤレポーズで笑う。
「いやいや。私が医者に見えるようでは、キミのカスタム・クローニングは失敗したって話になっちゃうよ。アッハハハ」
「…は?」
カスタム・クローニングとか、少年には全く意味が解らない。
笑ったサングラスの男性は、後から入室してきた医者らしき白衣の人物から、デジタルカルテを受け取る。
「…………です」
「なるほどなるほど」
ウンウンと頷きながら何やら納得した男性は、ベッドに身を起こした少年の前へと自動で滑ってきた椅子に、腰を掛けた。
「ん~と…まず私は、エージェント・ナンバーエイト。まあハチさんとでも呼んでくれたまえ」
言いながら、片手で強引に握手をしてきた。
「はぁ…どうも…。あ、僕は–」
自己紹介で挨拶を返そうとしたら、ハチさんが意味不明な事を告げる。
「キミの名前は水鏡悠。法的にはまぁ十五歳だが、現実的にはなんと、生後三か月の赤ん坊なんだぜ、ベイビィ~」
「…………は………?」
悠と呼ばれても、全く意味が解らない。
再びサムズアップを決めたハチさんにも「?」しか浮かばなかった。
☆その②☆
「はるか……はる…いいえ、僕は 真中始っていって–」
と言いかけたところで、またハチさんの言葉。
「うむ。だがそれはキミの名前ではなく、キミのオリジナル体の名前だ。実はキミは、その真中始少年の細胞から作られた、クローン人間なのだ」
「…………」
唐突すぎて、無表情になってしまった。
(この病院…っていうか、このオジサンは大丈夫なのかな…。あ、それより家族は? 美優は?)
悠と呼ばれる少年は、危機感にも似た不安に覆われてゆく。
(は、早くこのマッドな病院から、脱出しなきゃ…っ!」
「心が言葉で駄々洩れだぜ少年。はっはっは」
危機感が、つい口から出ていたらしい。怪しい中年男性に笑われてしまった。
少年の様子に、慣れているらしいハチさん。
「まあアレだ。手っ取り早く、納得してもらおうか」
と笑うと、少年の前にオールディーな手鏡を差し出す。
少年は、鏡を覗いた。
「………誰、これ…?」
鏡に映っていたのは、知らない、しかし自分よりもちょっと美形だなと思わせる顔だった。
無意識に右の頬を指先で触れると、鏡の中の顔にも指先が触れる。
間違いなく、写っているのは自分だと、認めるしかない。
「あの……つまり僕は、勝手に整形手術されてしまった…って事なんですか?」
やだなぁ。みたいに掌をペっと下げるハチさん。
「いやいや違うって。我々組織はそんな一般国民に迷惑をかけるような犯罪行為はしないって。さっきも話した通り、キミは真中始くんのクローン、水鏡悠くんなんだって」
再びの説明を貰った悠はしかし、要領を得ない会話にイライラしてきた。
「クローンって、何を言ってるのかサッパリなんですけど…っ! だいたい、クローン作製は十世紀前に国際法で禁止されているじゃないですか!」
「お、歴史に詳しいな。感心感心。はっはっは」
「はぐらかさないでください!」
思わず大声の悠に対して、ハチさんはノンビリと、壁と一体化した冷蔵庫から、ジュースを二本取り出して、一本寄越す。
「まぁまぁ、純を追って説明するよ」
ハチさんは、コーラが大好きなようだった。




