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未来世界のクローン戦士物語 ☆第十八話 悠として☆


 ☆その①☆


 かつて目覚めた病院のベッドと同じ場所で、同じ服を着て、悠は座っていた。

 ベッドの傍らには、初めて目覚めた時と同じように、ハチさんが椅子に腰かけている。

 別に、戦いで重傷を負っていたとかではない。

「まぁアレだ。クローン戦士は戦闘の後、精密検査を受ける義務があるのさ」

 戦いの後、トラックで本部施設へと戻ったハルカは、検査室で裸になって、色々な検査を受けさせられた。

 恥ずかしかったけれど、これも義務だし、真面目なスタッフはほぼ男性ばかりだったので、何とか耐えたのである。

「基本的な聴診器から目の検査から脳波検査、皮膚とか血液の採取まで、身体の内外を色々と検査されました。人生初の人間ドックですよね」

 全裸だった少年としては、女性スタッフがいた事だけでも恥ずかしかったし、女性の手で採血された時にも全裸のままだったのも、恥ずかしかった。

 色々な意味で疲弊している少年に比して、ハチさんはやっぱり明るい。

「ついでに、全ての検査の結果が出るまで入院しといてくれると、手間が省けて助かるぜ。イェイ」

 サムズアップでキメた感じのハチさんだ。

「一泊二日とはいえ、また入院ですか…まあ、明日は学校も休みですし、いいですけど」

 言いながらベッドにゴロんと横になると、ハチさんが、持ってきてくれたリンゴを剥きながら色々と話してくれた。

「あの必殺技、俺は好きだな。ところで、あの緑色のエネルギーな、特殊な酵素を含んでいるのさ。で、悠くんが音声とともに撃ち込んだその酵素ってのは…まぁ平たく言えば、細胞や遺伝子情報に反応して、自然界では存在しないクローン反応のある細胞のみを破壊する、特殊な酵素なのさ」

「そうなんですか–ええっ!?」

 なんとなく聞き流しそうになって、悠は慌てて起き上がる。

「クローン細胞って、それじゃ…っ!?」

 自分も消滅しちゃうのでは。とか焦るクローン少年に対して、ハチさんは意地悪い顔でニヤっと笑って、答える。

「その通り! キミたちクローン戦士にも、本来ならもちろん危険な物質だ。しかもキミたちの保有するノンモの因子が、その特殊酵素を通常状態よりもずっと協力に活性化しているワケだ。それがあの、緑色の光となって現れるのさ。クックックウ」

 などと、悪役芝居が丸出しなニヤニヤ顔を見せて満足したのか、ハチさんは一転して明るく笑う。

「って、そんな酵素を持たされたら、キミたちだってたまらんだろう? でもご安心。キミたちクローン戦士だって、量産できる消耗品なんかじゃない。例えばキミ一体を作るにも、数十億円とかかっているのさ。で、クローン培養の段階で遺伝子操作をして、酵素に対して耐性のある対酵素用の因子を強化しているてワケだ。もちろんそれだけで酵素に対抗できるわけじゃないから、ジャケットなんかの装備品も、対酵素の特殊仕様がゴマンと搭載されている。これらの技術は、今んとこ人類だけのオリジナル技術なのさ。うんうん」

「そ、そうなんですか…だから、僕たちは怪人と戦えるってわけですね」


 ☆その②☆


 ホっとする悠に、ハチさんは更に話を続ける。

「さっきのハエ怪人の例にもれず、怪物の再生能力は異常だ。あれではノンモの因子を持たない戦闘要員、つまり普通の国防軍や軍隊では、倒せるまでに多数の犠牲が出てしまう」

「だから、僕たちクローン戦士が戦う…」

 真剣に想う悠に対し、ハチさんは、明るく告げた。

「ついでにだ、キミの整形手術は遺伝子操作の時に施したものだから、一般的な整形手術のように、整形を維持するための定期的な手術や薬物投与は必要ないのさ。オリジナルの少年より美形にもなれたし、お得だろう? イェイ!」

 言われた悠も、恥ずかしながら素直に報告。

「ま、まぁ…以前よりも女の子に話しかけられは しますけど…」

 ハチさんは、ニっと笑った。

 器用にも話しながら剥かれたリンゴは、いわゆるウサギ型で、数羽のウサギリンゴをお皿に乗せて寄越してくれながら、思い出したように話してくれる。

「ああそうだ。それとな、ちょっとキミの右頬を見てくれ」

 言われて、オールディーな手鏡を受け取って、見てみる。

 右の頬に、何かを引っ掻いたような、少し歪な傷痕があった。

 傷口としては塞がっているし、あまり目立たないけれど、火傷みたいに小さな起伏があって、ややコゲ茶色に変色している。

 悠は、ちょっと考えて思い出す。

「……あ」

「そうだ。戦闘で、ハエ女の強酸唾液を浴びただろ。ヘルメットの装甲のダメージ部分から入り込んで、火傷してたのさ」

「そっか…そうでしたね」

 あの時の恐怖感はまだ残っているものの、トラウマになる程の感じは、不思議となかった。

 勝った。という事実が、少年の心に自信を持たせているのだろう。

 悠も、照明に反射させたりして、傷痕をジックリと観察。

 痛くはないけど、やけに艶があって、確かに傷痕だと解る。

 ハチさんは、そんな悠を見ながら問いかける。

「でな、その傷、整形手術で半日もあれば綺麗に消せるんだけど、キミの意見を聞いてからの方が良いと思ってな。どうするかい?」

 悠は、ちょっと考えて、ハッキリと自覚する。

「ありがとうございます。傷はこのまま、残してください。これは、僕が僕である証ですので…!」

 少年の答えに、ハチさんはニコっと微笑む。

「そっか。ならそれでOKだ!」

 悠は、お皿のリンゴを一口、齧る。

「ん、美味しいですね、このリンゴ」

「え、マジ? 実は俺、リンゴ大好きなのさ。一つおくれ」

 初めて「俺」と言った気がして、悠は何だか距離が近づいたようで、嬉しく感じた。

「あはは、演歌だったら、リンゴは故郷か男女の歌ですよね」

 笑いながら、二人はウサギリンゴを分け合った。

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