未来世界のクローン戦士物語 ☆第十三話 特殊戦闘服☆
☆その①☆
鈍い銀色の金属ケースは、地味で飾り気が無くて、見た目も安っぽい。
しかし本体は軽量弾力の超金属で、バズーカや携帯ロケットランチャーでも破壊が不可能。
ロック部分のモニターパネルは、一般には使用されない高度な最新式で、つまりケースの見た目はカモフラージュだと解った。
「キミのナンバーは四九‐八九で、入力すると君の指紋を感知して、ケースが開くぞ」
ハチさんの説明の通りに、悠はモニターから投影されるキータッチ画面で、ナンバーを入力してみる。
「えっと、四九‐八九…」
目の前に映し出されたシガレットケース程の光の枠でナンバーをタッチしたら、ガチャっとロックが外れて、鈍い音でケースが開いた。
「……こ、これは…」
「ソルジャー専用のバトルジャケットだ。それはキミ専用で他のソルジャーは使用できないし、キミも他のソルジャーのジャケットは使用できない」
驚く少年の視界には、新品のバトルジャケットと呼ばれる装備の一式が。
革っぽい上着と、ジーンズっぽいパンツ。
ゴチャゴチャと機械が装着された無機質なベルトと、フルフェイスでやはり機械が見える無機質なヘルメット。
グローブもブーツも装甲っぽくて、スーツ一式のカラーは艶消しの黒色っぽい感じだった。
男子の本能なのだろう。こういう部品を見せられると、戦闘意欲を刺激されて、なんだか無駄にワクワクしてしまう。
「これが…僕専用 なんですか…?」
「そうだ。時間が無い、すぐに着替えてくれ」
「は、はい」
言われるままに、コンテナ内でパンツ一枚の姿になって、ケース内の装備を纏ってゆく。
赤いシャツやジーンズっぽいボトムは、装着者の汗などを吸収発散するだけでなく、生体反応を感知する特殊センサーの役目も担っている。
革っぽい上着を着て、メカブーツとメカグローブを装着して、メカベルトをお腹に巻く。
「そのベルトが、ジャケットの中枢だと思ってくれていい。少なくとも、スイッチのオンオフは、音声以外ではそのベルトが担っているゾ」
場を和ませたいのか、ただ言いたかっただけなのか、ハチさんは語尾を強調しつつ、ニっとサムズアップだ。
ベルトを巻いたら、微振動が感じられて、ジャケット全体がオートで接続。
最後に手にした金属のヘルメットは、全体的に黒系で丸っこくて、目の部分は真っ黒だ。
「被れば自動で接続されるぞ」
と言われて被ったら、極近距離の電波で反応していたらしく、一瞬のタイムラグもなくヘルメット越しの視界が確保されていた。
接続が完了すると、ゴーグルの目の部分が丸くビカっと光ったのが、悠にも解る。
「よし。では悠くん、現場に到着してコンテナから降りたら、ベルト右側のスイッチをオンにしてくれ」
「は、はい」
ジャケットの内部は空調までされていて、常に新鮮な空気が循環していた。
☆その②☆
ヘルメットの視界は、まるで何も装着していないような広さ。
外映像の上に、外気温やジャケット、装着者の状態などが、クリアカラーの光で表示されている。
「なんか…すごくよく見えますね」
少年の驚きと感想に、ハチさんは嬉しそうだ。
「ああ。実は映像は直接、脳神経に伝えられているからな。視界を遮られる事はほぼ無いぞ。しかもだ、手動操作しなくても意識しただけで、ジャケットが脳波を拾って色々と調整してくれるからな。真っ暗闇でも昼間のように見えるし、対象物へのズームやら熱探知やらも瞬時に反応してくれる 優れ物だ」
細かい事はよく分からないけれど、素直に感動している少年である。
「演歌だったら、荒波の中へと漁に向かう漢の歌ですね」
「よく分からんが、そういう事だ!」
またサムズアップをくれるハチさんだった。
「お、そうだ。キミのコードネームだが…」
「は、はい!」
コードネームとか言われると、いっぱしのエージェントにでもなった気分だ。
「ナンバーからとって、シクハックマンとでもするか!?」
ナイスアイディアみたいに満面の笑みなハチさんに比して、悠はヘルメット越しでもわかるくらい、無表情で否定的だ。
「イヤです断固拒否します恰好悪いし縁起も悪いです」
少年の常識的な反応に、ハチさんはホワ~イ顔。
「そうか? なら便宜的で常識的でつまらんが『装甲戦士ハルカ』とでも呼んでおこうか」
「そのまんまですけど納得しました」
コードネームも決まったところで、運転席から報告が入った。
『現場に到着します』
いよいよ現場。戦い。
少し浮かれてたハルカの意識が、また緊張を高めてゆく。
ゆっくりと停車をすると、二台のコンテナの扉が開かれて、戦闘服の部隊が素早く展開。
少年も、これから戦場となる大地へと、足を降ろす。
「よし、スイッチを入れてくれ」
「はい」
ハチさんに言われて、ハルカはベルトの右側に設置されているオールドタイプなスイッチを、指で捻った。
–キュィィィィィイイイイイイイイイイイインンっ!
クラッシックで静かなモーター音が聞こえると、全身に力が湧き上がるような感覚。
ハチさんが言う。
「スイッチを入れた瞬間から、キミの腕力とかはジャケットによって格段に強化されている。車から降りるにも、力を意識しないと、このコンテナの扉でさえ、発泡スチロールのようにヘシ折ってしまうぞ」
「は、はい。気を付けます」
そういったハルカが手を離したら、扉には指の後が食い込みとして残っていた。




