未来世界のクローン戦士物語 ☆第十二話 戦場行路☆
☆その①☆
「んぐっ–ははいっ!」
半分ほどまで食べたお弁当に慌てて蓋をして、口の中のごはんをお茶と一緒に一気飲みしつ、公園の前に出る。
一分と待たず、二台のオールディなガソリン・クラッシック・大型トラックが、少年の前に停車をした。
「うわトラック…!」
と、一瞬だけ事故の瞬間を思い出して焦ったものの、そういう心理的な影響にも、ここ数日の訓練で克服はしている。
なので、心理的には焦っただけで、とくにトラウマという事でもなかった。
一号車というか、先頭トラックの後部コンテナが開かれると、サングラスのハチさんが悠を呼ぶ。
「さあ乗ってくれ! 現場に急行レッツゴーだ!」
サムズアップで明るく言うハチさんだけど、声色に緊迫感が感じられた。
悠がコンテナに乗り込むと、中は移動指令室を連想させる造り。
前側の壁にはモニターが輝いていて、後部のスペースは数人が着座できる椅子や、ミーティング用のテーブルが設置されている。
乗り込んだ少年に対して、装甲服を纏った大柄な男性隊員が三名、直立して敬礼をくれた。
「あ、ど、どぅも…!」
三人は武装で身を固めていて、まるでアクション映画の一場面のように感じられる。
「OK、ソルジャーと合流! 出せ!」
扉が閉じられて、二台のトラックが発車した。
(か、怪物が…出たんだ!)
緊張感だけでなく、呼ばれたのはそういう事だろうと、想像が出来る。
これから戦い。
映像で見た記録が、頭を過る。
倒れた一般国民や隊員たち。
傷を負ったソルジャーもいた。
僕も、あの現場に。
そう思うと、緊張で心臓がドクドクと、激しく脈打つ。
全身が冷えるのに汗ばむ、嫌な感覚だ。
(怪人との闘い……現場…現場か)
悠は、刑事ドラマなどから連想した現場という単語を、なぜか頭の中で繰り返していた。
トラックは、空ではなく地上の一般車道を走りながら、静かに現場へと向かう。
自動走行が、車ではなく道路によっても行われる、無事故システムだ。
なので、国民には伏せられているとはいえ緊急車両だから、信号にも渋滞にも嵌ることなく、トラックはスイスイと進む。
現場に到着するまでの間に、ハチさんからクローン戦士へと、必要な情報が伝えられる。
「さて、悠くんも察していると思うが、怪人だ」
「は、はい…!」
やっぱり。という、何だか現実感の乏しい感想があった。
「あの…今、そこに向かっているわけですよね…。その…被害者 とか…」
ハチさんの答えは、少年にとって、ちょっと意外だった。
☆その②☆
「まだいない」
「え?」
「と言うか、怪人の出現は これからだ」
ハチさんによると、人類の開発した様々な観測システムにより、月の裏側にあるエイリアンの基地を観測し続けている。
その結果、エイリアンが怪人を送り出す前兆みたいな特殊電波を察知できて、おおよそではあるが怪人の出現地点と出現時間が予測できるらしい。
「それじゃあ、まだ事件そのものは…」
「ああ、怪人も被害者もゼロだ。今のところはな」
これからどうなるかは解らないという意味ではあっても、今現在のところ被害者はいないという事実は、少年をホっとさせてもいた。
「監視衛星のおかげで二十四時間、エイリアンが怪人を送り出す前兆は察知できるものの、転送技術は、先の戦闘で人類が手に入れられなかった、エイリアンの未知の技術だ。クヤシーっ!」
少年の緊張をほぐそうとしてくれているのだろうけれど、最後のボケっぽい地団駄も、初陣の少年には笑えなかったり。
「でだ、我々は月からの特殊な空間変異や重力波の変調、微粒子レベルでの熱エネルギーや微細な引力の変化を探知して、怪人が出現する十分くらい前に、出現地点を予測できるようになった。という経緯があるのさ。アンダスタン?」
オジさんのギャグが笑えないのは、悠が緊張しているせいだけではなく、サングラスの奥の目が笑っていない事も大きな要因だろう。
少年は、自ら気持ちを落ち着かせつつ、尋ねる。
「つまり、これから向かう地点に怪人が出現する。という事ですよね」
「その通り。ただし、怪人は近接タイプとか遠距離タイプとか大雑把にしか推測できないし、出現地点は誤差二十メートル程だから、必ず目の前に現れるとは限らんぞ」
ハチさんは「警戒を怠るなよボーイ」とか言いつつ、立てた人差し指をユラユラさせたり。
少年は少しずつ、ハチさんの滑りギャグがわざとで、そうする事でこちらの緊張をほぐしてくれているのかなと、呆れながらだからこそ思った。
少年の微妙な反応に満足したのか、現場司令官はフと思い出したようだ。
「ああそれと、丁度さっき完成したばかりの、キミ専用の戦闘武具一式だ」
「戦闘武具…?」
言われると、隊長の背後に待機している黒服の男性から、アタッシュケースを渡された。




