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未来世界のクローン戦士物語 ☆第十話 生まれ出ずる悩みとか☆


 ☆その①☆


 ヨガで全身を柔らかくしながら、二人の会話は続いた。

 ほぼ真横に九十度近く上体を曲げながら、宮坂氏は語る。

「ただ、ノンモの遺伝子が検出される個体数は、極めて少人数という話です」

「ぁの…くく…怪人と戦う事と、その…ノンモの因子ぃ…って、いてて…何か関係が、あるんですか?」

 息も苦しく悶絶しながらな悠の質問に、宮坂氏は同じポーズでより深く全身を曲げながら、静かに答える。

「悠さんも既にご存じの通り、国連組織が月の裏側に居を構える宇宙人との戦闘の際に手に入れたテクノロジーの中に、クローン技術と、生体強化改造システムがありました。日本やアメリカやイギリスなど、世界中の科学者を動員し研究した結果、私たち地球側がその技術を解析し、習得し、更に改良した…という経緯があります」

「いてて…つまり、その強化システムを使えるのが…」

「私たち、クローン戦士、という事なのです」

 悠の頭に、ハチさんの言葉がス…と入ってきた。

(クローンとして僕が造られたのは、宇宙人の作った怪人と戦う為)

「つまり…」

(僕…始からクローンを造り出したのは、万が一にも始が戦って死んだりしたら、貴重な因子保有者を失ってしまうから、そのリスクを極限まで避けた結果…っていう事か…)

 逆に考えれば、クローンを造り出すと決定されるまでの間に、多くの因子保有者や、因子が検出されない一般の軍人さんたちが、怪人の犠牲になっている。

 という過酷な現実もあったのだろう。と、悠は推察をした。

 少年の沈黙を静かに見守った宮坂氏が、その思考を邪魔しないタイミングを見計らって、話を続ける。

「クローン同士の子供も観察は続けられているようですけれど、求むるはノンモの遺伝子が強いかどうかであり、これがクローン戦士なら絶対優位、という事でもないようですね」

 必要なのは僕ではなく、ノンモの因子が強く出る、誰か。

 悠の心に、黒い想いが拡がってくる。

「つまり、僕は…誰かの–」

「替えの効く捨て駒」

「えっ–」

 心を見透かされて、ドキっとした。

 思わず姿勢が崩れて、でも年上の女性戦士を見上げて、その黒い瞳をジっと見てしまう。

 少年の不安を、やはり自分も体験してきたからだろう。宮坂氏の言葉は、どこまでも優しく続く。

「–などと考える必要はございません。人生とは、生まれた環境によって与えられ、歩き始める舞台に過ぎません。全ての命には、生存しなければならない意味も理由も、意義すら、もとより御座いません。それはオリジナル体の始さんでも、私でも…また会ったことのない他人でも、更に職業を問わず、実は同じ事でしょう」

「う………」

 言われてみればその通り過ぎて、気持ちは納得できないけれど、反論も出来ない悠だ。

「生まれる家庭…地域の状況…そもそも命とは、生まれた時から平等ではありません。平等というその理念は素晴らしいものであっても、です。そして人生とは…誰から、ではなく自ら意味を与えてこそ、初めて輝きを持つものだと、私は考えております」


 ☆その②☆


「僕は……」

 言葉に詰まってしまう、悩める少年に対し、大人の女性は微笑む。

「その答えを探す為の人生…という意味では、誰もがみな等しく、舞台の主人公に過ぎない。それが私にとっても、生きるという意味でございます」

 静かに、しかし凛として言い切る宮坂氏が、なんだか眩しく、羨ましくも感じる悠だ。

(正直 クローンとして勝手に造り出された理不尽さは、感情としてはあるんだ…)

 二人は逆に、左側へと限界まで身体を曲げる。

「いてて」

(でもたしかに…そもそも人生って、国とか地域とか家庭環境とかの、スタート地点から平等じゃないのも、現実だよね…)

 そして誰もが「生まれたいから生まれた」などと認識しているわけではない。

 生まれた命はみな、親によってこの世に誕生し、人々に愛され、必要な人間へと成長してよく。

(残酷な言い方をすれば…僕たちクローンは親が違うだけで…いやむしろ、身体能力がスバ抜けているぶんだけでも、優れたスタート地点…って言えるのかも…)

 と、悠は納得するしかなかった。

「……ですよね…ゴネたところで、何がどう良くなるワケでもないですしね」

 諦めに近い納得だけど、心のモヤモヤはかなり晴れた。

 悠の声に合わせるように、宮坂氏は少し元気な声で告げる。

「さて、ストレッチはこのくらいにしましょうか!」

「はい」

 立ち上がる二人。

「では、本日からは戦闘トレーニングもスタートさせましょう。悠さんは私と同じ近接戦闘タイプですので、引き続き私がコーチをいたします」

「はいっ!」

 戦士としての適性は、近接や接近、中距離や狙撃など、数種類に細分化されている。

 一人一適性というわけではなく、まずは最も得意なレンジでの訓練をする。という事だ。

 この適性は、クローン精製での強化ではなく、オリジナル体の持つ潜在能力の解析によって引き出される、能力の底上げでもあった。

(僕に近接戦闘の能力があったなんて…特撮ヒーローみたいだぞ!)

 そう思うと、ちょっとワクワクする男子であった。

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