Report87: 雌伏の時
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テレビを付けると、ニュースが流れていた。
数日前に起きた、例の大学キャンパス内で起きた銃撃事件だ。半壊した校舎と、建物一階部分に突っ込んだフォードのレンジャー、それから壁に残った生々しい銃痕が映っていた。
「フン、その内バレるのではないか?」
男はテレビの電源を消すと、嘲笑するかのように言った。独特のしわがれた声だった。
腕を組み、思考を巡らせているようである。
「ああ……だが、時間が必要だった。敵が何者なのか……確かめなければならん」
返答したのは女だ。薄暗い部屋に居るのは男と女、二人だけである。
ベッドとテーブル、テレビ、冷蔵庫、それから時計。バンコク市内のホテルの一室だが、物寂しい部屋であった。
彼らは自分達の敵が何者なのかを探っていた。
数ヶ月ほど前からだろうか。女は自身を狙う人間と交戦する事が度々あった。それ自体、彼女にとって珍しい事ではなかった。生死を掛けた戦いというものは、幾度となく経験してきたからだ。
しかし、その相見えた相手が自らの素性を知り尽くしていたとしたら。
捨ててきた筈の女の過去を洗い浚い知っていたとすれば。
そのような気味の悪い出来事が相次いで起きたとすれば。……それは到底、等閑に伏せる問題ではなかった。
まして、その結果女やその仲間も深手を負っている状態であり、危機が迫っていると言えた。
解せない、といった様相で女は口元を歪める。
「一旦、私は戻る。何かあれば、知らせに来る。携帯は使うな」
「弁えているさ」
女が部屋を出て行き、木製のドアが閉扉した。男は溜息を吐くと、テーブルにあったタバコに手を伸ばす。
男は部屋を出る事を許されていなかった。正確に言うと、衣食住は保障されているが、不要の外出を禁じられていた。満たされない日々に鬱屈とするのは無理もない。
男は一人頷くと、窓の外を見やる。
「フン……成程、リセットって事か」
今しがた出て行った女を目視すると、また視線を部屋に戻した。
その視線の先にはビニール袋。中にはライターとタバコが入っている。女が置いていった土産だ。
灯りも点いていない部屋を、薄墨色の煙が満たしていった。




