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リセットメガミ  作者: さっさん
File8: 女神は墜ちる ~カニバリゼーション・マーケット~
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Report84: 敗壊の匂い

 ◇◇◇


 記憶を取り戻した時、俺は事務所に居た。時刻は朝八時。服装は昨日のままで、体から焦げた匂いがした。何があったのか……思い出せない。サラサラした感触と、良い匂いがしていた事は覚えているんだが……。


 事務所を見渡すと、カメコウが居た。取引中であれば、ゾフィが待機していた筈だけど。

 ……そうだ、取引。取引はどうなった?


「カメコウ、俺が気を失っている間に何があったの? あと、何で俺は気を失ったの?」

「ああ~、えっとね……気を悪くしないでほしいんだけど……」


 何だ。何でそんな言いづらそうなんだ?

 皆、無事なんだよな?

 取引は……サムチャイ、そうだ。サムチャイは犯人だったのか?


「メガミさんは入院中。ボロボロだけど、命に別状はないって。だけど……」


 言い淀んでいたカメコウは、ポツリポツリと言葉を話し出した。

 そうして俺は、事の顛末を聞いて愕然とする。


 メガミが俺を庇って、ボロボロになってしまった事。

 ロジーが瀕死の重体で、もしかしたら助からないという事。

 それでも、誰も俺を見捨てようとしなかった事。

 最後まで諦めなかった事……。

 サムチャイ教授がやっぱり犯人だったなんて、正直どうでも良かった。


 なんだ、俺のせいじゃん。

 俺が足を引っ張ったせいで、みんな死に掛けてんじゃん。

 俺が周囲の警戒を怠って、やられて、勝手に気を失って……お荷物になって。……最低の屑だ。

 瞼に涙を浮かべ、俺は俯いた。


「カメコウ。ちょっと、ごめん。席を外す」

「あ、うん……」


 事務所を出て、扉を閉める。その瞬間、せき止めていた感情の波が一気に押し寄せた。

 俺は拳を握ると、思い切り壁を殴りつける。大きな音がするがコンクリートはビクともせず、代わりに俺の拳が裂けた。

 皮膚から血が滲み、垂れる。狂いそうな程の激痛が俺を襲ってくる。

 痛い、悔しい、苦しい、どうしよう。

 雨のように涙が流れる。


 子供をなくした親のように、癒えない傷と覆らない過去にぼろぼろと泣いた。視界が水浸しになり、頭の中も滅茶苦茶になってゆく。

 どうしたら良いのか。

 どうしたら良かったのか。

 体を震わせ、泣き喚いても解決する事はない。そう分かっているのに、涙が止まらない。


 この日、朝九時になってもリセッターズは集まらなかった。

 俺とカメコウの二人きり。こんな事は初めてで、鉛のように重い空気が満ちていた。時の流れが狂ったようで、一時間が半日のように感じられる。正午には事務所を施錠し、解散となった。


 そして、その夜。

 搬送先の病院で、ロジーは静かに息を引き取った。

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