表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リセットメガミ  作者: さっさん
File8: 女神は墜ちる ~カニバリゼーション・マーケット~
80/101

Report76: 微笑の国の子ら

「さて、ぼちぼち移動するか」


 午後の授業は……選択科目か。

 大学では必ず受けなきゃいけない必修科目っていう授業と、自分の好きな授業を選んで受けられる選択科目っていうのがある。

 必修科目の単位を落とすと、浪人が決まったりするんだが……タイでもその仕組みは同様だった。午後イチで俺が受けるのは選択科目。

 ドイツ語、フランス語などが学べる時間だったのだが、俺が選んだのは日本語――そう、俺が日本人なのに、だ。

 百パーセント、これは興味本位で選んだ。どんな日本語を話しているのか。潜入調査だし、ぶっちゃけ出席しなくてもいい。だからこっそり後ろの方で授業を見学する事にしたのだ。


「あれ、もしかしてキャロル?」

「ラッシュさん!?」


 教室へと移動する道中。何という偶然だろうか。廊下で、車椅子の少女キャロルに出くわした。

 タイ王国連続テロ事件の主犯、リクセンの娘、キャロルだ。以前、何度か出会い、言葉を交わした。一番初めはゾフィとヤワラートで買い物していた時だっけ。

 色々とあの後心配をしていたんだが……こんな偶然ってあるのか?

 いや、そもそもここは大学なわけで。キャロルは確か小学生だった筈だが、何故……。


「親戚が通ってまして。お弁当を届けに」

「大変だね……。というか偉いね!」


 驚き、固まっている俺の頭の中を察したのだろう。やや戸惑いながらもそう答えてくれた。

 本当に賢い。頭の良い子だ。

 それに、あんな事件があったからだろうか。小学生とは思えない程、大人びた印象を受けた。


 俺の返答に謝辞を述べると、そのまま申し訳なさそうに帰っていった。

 その背中を、手を振りながら眺める。万感の思いがそこには感じられるような、そんな気がした。


 キャロルの父親であるリクセンと俺達は戦った。結果、こちらも相当の深手を負った。しかしそれ以上に、リクセンを死なせてしまった。

 俺達が殺したのではない。リクセンがトラックへと自ら飛び込んだのだ。そうして亡くなった。

 あの時、近くにキャロルが居た。娘の手前、父親なりに思う所があったのだろう。ケジメか。それとも自らの誇りか。

 最期を、無様な姿を娘には見せまいと、自決したのかもしれない。


 キャロルからしたら、父親を殺したのは俺達のようなものだ。戦い、リクセンを追い詰めたのはリセッターズとブラックドッグだから。

 父の仇と思われても仕方がない。

 しかし、キャロル自身、分別が付いているのではないか。父が罪人である事、リセッターズが人々の為に行動した事、裁かれた事。

 そしてその結末を……。


「本当、立派な子だよ。俺なんかよりも、ずっと」


 思わず、本音が零れた。

 罪を犯した俺だからこそ、そう思う。第二の人生を与えられてから、俺は贖罪の毎日だ。

 子供の人格形成と精神的成長が環境にあるとするならば……。

 リクセン、あんたは最高の親だったんじゃないかな。




 やがて、授業が始まった。俺は一番後ろの席で、伊達メガネをして、ひっそりと受けた。

 教室は深々(しんしん)として、生徒が熱意をもって日本語を学んでいる事が知れた。講師はタイ人だけど、日本出身の俺が聞いても、綺麗な日本語の発音であった。

 今日は平仮名の読み書きのようで。後半のカリキュラムでは漢字を書いたり、一人で喋らされたりするらしい。


 漢字なんて書けなくてもいいだろ。

 日本人も書き間違えたりするんだから。ケイン・○スギみたいに喋れれば十分だ。

 ファイト、イッパーツ!

 キミモ、パーフェクトボディ!


 ……しかし、日本語なんて世界で日本しか使っていないのに、よく講義を受ける気になったな。

 ふとそんな疑問を抱いたので、隣の席に居た男子学生に聞いてみる。

 話しかけると、ちょっと驚いた様子で彼は答えてくれた。


「あー、日本のアニメ、漫画に興味があるんだよね」


 行く行くは日本に観光へ行き、現地のオタク・カルチャーに触れたいらしい。

 なるほどなるほど……。やっぱジャパン・アニメーションか。

 スシ、テンプラ、サムライの時代は終わりを迎えたのだ。今はきっとナルト、エヴァ、ドラゴンボールなのだろう。


 彼の名前はティラシンというらしい。実は別の科目でも一緒で、顔を見た事があった。

 明日の授業でも同じだった筈だ。だからこそ、勇気を出して話してみたのだが……普通に良い子だった。


 タイには夢が溢れているな。素晴らしい事だ!

 そう考え、何やら悟りを開いた俺は、授業を抜け出した。

 サボりではない。これは……潜入調査なのだから。


「現場を見ておきたいんだよね……」


 俺が向かったのは、インターネットの掲示板で書かれていた所在だ。犯行現場なのか、取引現場なのかは不明だ。

 だが、先程まで受けていた語学の授業と、場所が近かったのだ。


「五〇五号室、ここだよな……?」


 扉に手を掛けてみた所、施錠されている事が分かった。ドアは開かず、中の様子も暈しが入っていて見えない。

 扉の隙間から見えないかな?


「君、何やってるの?」

「え、あ! すみません!」


 突然、背後から話しかけられた。驚いて振り向くと、そこには白衣を着た男性が立っていた。

 髪と髭が真っ白の年配の男性……サムチャイ教授だ!


「いや~、サボってランチを食べられる場所を探してまして……」


 疑いの眼差しを向けられ、適当な嘘をついてみる。

 すると、サムチャイ教授は怒るわけでもなく、深く溜息をついた。


「君みたいなのがこの大学に居ると思うと、恥ずかしいよ……」

「す、スミマセン」


 どうやら本気で呆れている様子である。俺は苦笑いを浮かべ、逃げ帰るように立ち去った。

 ……今のがサムチャイ教授か。大学を貴ぶ良い先生に見えたけどな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ