Report58: ファンクラブ
数日後。俺達はヤワラートの事務所に集まっていた。無論、カメコウは行方不明のままである。
だからここに居るのは、カメコウを除いた四人だけだ。
どうやら進展があったらしい。闇に覆い隠されていた部分が、露になったようだ。
「俺は情報戦は得意ではないのだが……フン」
ロジーは煙草の火を消すと、パソコンの画面を俺らに見せた。数日の内に調べ上げたデータが、そこには映し出されていた。
「まず敵についてだが……メガミのファンクラブのようだ」
「なんだと?」
反応したのはメガミだ。ファンクラブの存在をメガミは知らない。驚くのも無理はない。
ゾフィはその傍らで沈黙したままだ。察するに、コイツは何となく知っていたようだ。
にしても、ファンクラブか……。
「気になってそのフィギュアを調べたのだが……メガミよ、確か数十体は買い占めたと言っていたな?」
「ん、ああ……店にあった物は全部、私が……」
「フン……その後からだ。これを見てくれ」
ロジーがパソコンのキーボードを弾くと、とあるネットショップの情報が映し出された。フィギュアは未だにネットで販売されているようで、メガミ・フィギュアの画像や値段、説明などが表示されている。ところが……。
「さ、三万バーツ……?」
「私が買った時はこんなに高くはなかったぞ……」
その金額の部分を見て、俺は驚きの声を上げた。メガミもだ。
日本円に換算して、約十万円といった所か。フィギュア一体にしては高すぎる値段だ。
「左様。ある日を境に、価格がどんどん上がり始めている。急激な値上がりが起きているのさ……」
「それが、私が買い占めた日、というわけか……」
「そうだ。具体的には、買い占めた結果なのか、それとも仮面男とカチ合った結果なのかは不明だが」
そう言いつつ、ロジーは今度は別のサイトを見せてくれた。
ネットショップではなく、団体か何かが運営しているホームページの通販と思しきものだ。先程のサイトと比べ、やや貧相な造りである。
「俺としちゃあ、需要があるって事に驚きだがよ……コイツは?」
「フン……、まず……」
半ば呆れた様子で、ゾフィが言った。尋ねられたロジーは腕を組んだまま沈黙している。頭の中で言葉をまとめているのだろう。
確かにゾフィが言う通りだ。値段が高騰しているという事は、つまりそれでも売れる自信があるという事だ。
オタク達が買っているのだろうが、それにしてもこれだけ高値にするのは理解が出来ない。流石に売れなくなるだろうし。
そんな事を考えていると、ロジーが語り始める。
「さっき見せたのは大手ECサイト。だが……出品している連中がどうもキナ臭い。有名な販売業社を除けば、個人ばかりだ。
中にはただの転売ヤーも居るのだろうが……。即ち、全員グルという事だ」
「どういう事だ?」
画面を食い入るように見ていたメガミが、説明を求めた。対するロジーは、半ば推測なんだが、と前置きしてから煙草に火を付ける。
そして画面を指差し、説明を続けていく。
「コイツとコイツ、コイツも……。個人が出品しているのに、商品の取扱を開始した日が一緒なのだ。これは明らかにおかしい。
それに、こいつ等全員、メガミのフィギュア以外は販売していない。どうだ、何か、引っ掛かるであろう?」
話を聞いていたメガミは「成程な……」と呟いた。何かを悟ったのだろう。
ロジーは壮年の顔に皺を浮かべて笑った。そしてフゥ、と煙を吐き、また口を開く。
「それから、今見ているこのホームページ。ファンの人間が立ち上げたサイトで、ここでもフィギュアを販売している。
そもそも、こんな物、身内の協力が無ければ作るのは不可能だ。そう考えた俺は、フィギュアの製造に必要な機材を卸している業者を当たった。そうしたら、購入者の配送先にカメコウの住所があった」
「ビンゴ。だとすりゃあ、フィギュアを製造していたのはカメコウで間違いねぇな」
ゾフィは指をパチンと鳴らした。
説明していたロジーは頷くと、俺を一瞥し、またパソコンへと向き直った。
……もしかしたら、俺もフィギュア制作を手伝っていた事に気付いているのだろうか。




