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リセットメガミ  作者: さっさん
File6: 女神は舞い戻る ~愛好家とモラリズム~
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Report56: 仮面の男

 ◇◇◇


 辺りが静寂に包まれ、夜闇が支配した頃、メガミは一人、バンコクの市内を走っていた。

 日中、ショッピングモールで発見したのは自分を模したフィギュアだった。あれは一体何なのか、そして誰が作っているのか。それを確かめに向かっていた。

 メガミ自身、外見の美醜など気にも留めない。だが、目立つのは好きではなかった。金髪の彼女は歩いているだけでも人目を引くもので恥ずかしいのだろう。

 だと言うのに、(あずか)り知らぬ自分の分身が市場で出回っているとあれば、尚の事こそばゆいというものだ。


「供給は立つ……」


 製造者には文句を言ってやるつもりであった。

 玩具屋などを問い詰め、製造元の電話番号と住所を調べ上げた。


 月明かりと街頭に照らされ、目の前には大きなマンションが聳え立つ。目下、ヤワラートからそう離れていない住宅地にメガミは居る。

 周りには誰も居ない。それもその筈、同僚には何も伝えずに独りでここに来た。リセッターズは関係ない。それに来てほしくないとさえ思った。だから今回、単独で動いた。


「カメコウの住所と同じ……」


 薄々と感じていた心のモヤ。それをメガミは考えないようにしていた。だがこの場所が近づくにつれ、心の動揺は大きくなっていった。

 聞き出した住所が、カメコウのものと同一なのでは、否、そんな筈は……と。

 胸苦しさを感じていた。だが、遂にマンションを目前にして、予感は確信へと変わる。

 エントランスを入り、エレベーターを使って上階を目指す。


(もし本人だったとして、何か理由があるに違いない……)


 薄暗い廊下を歩き、一つの扉の前に立った。

 インターホンを押す。チャイムが鳴り、数秒待った。だが、中からの応答は無い。寝ているのだろうか。


「無用心な……」


 ドアノブを掴んでみると、何故か扉が開いた。施錠されていなかったようで、緩やかに開閉する。

 入って良いのだろうか。逡巡するも、同じ部隊の人間だと自らを説得した。そして「邪魔するぞ」と一声掛け、足を踏み入れる。


 電気は付いておらず、部屋の奥に位置するベランダから月明かりが漏れているだけだ。

 間取りはワンルームであるが、一人暮らしの男性の部屋にしては案外広く、そこそこ快適な生活が送れる部屋だった。


「カメコウ、居るか?」


 ただ、掃除は行き届いていないようで、不衛生である。ゴミが散乱し、悪臭を放っていた。

 生活の痕跡はある。だが、無造作に畳まれた寝床は(もぬけ)の殻だった。メガミは立ち止まり、青息を吐いた。


「こんな時間に出かけているのか?」


 部屋の主であるカメコウの姿が無い。諦めて部屋を出ようとした時、浴室の扉がキィ、と音を立てた。

 メガミはすかさず腰に差していたグロック17に手を掛ける。瞬刻、その目に鋭さが戻った。

 緋色の水晶のような眼には鬼気が宿り、同僚に見せる物から外敵に見せる物へと、敵愾心を漲らせる。

 その様子はまるで、美しく勇ましいヴァルキリーのようである。いつからだったか、ここタイに来てからは<リセット女神>という二つ名が知れ渡っているようである。


 次の瞬間、耳障りな音が響いた。メガミの握った拳銃と、()()が直撃していた。火花が飛び散り、メガミは目を細める。何者かに攻撃を受けていた。

 突如として現れたのは、カメコウではなかった。

 一歩後退し、メガミは対峙した相手を見据える。漆黒の外套を纏った、仮面の男。手にはナイフが握られている。暗闇に紛れ、白い仮面だけがまるで宙に浮いているかのような、不気味な印象を覚えた。


「何者だ!」


 メガミは拳銃を構え直すと、相手を威嚇した。普段冷静なメガミではあるが、敵対した男が只者ではない事を感じ取っていた。

 メガミの頬を汗が伝い、それを撫でるかのように冬の風が部屋に吹き込む。


「リベルタスか」

「なっ……貴様」


 仮面の男が言葉を放つと、メガミは驚き、動揺した。

 白皙の顔には焦慮が生まれ、口元を歪めた。


「何故、その名を……!」


 先に動いたのはメガミである。引金を引き、発砲した。マズルフラッシュが室内を照らす。弾丸は男の頭部へと発射された。

 だが仮面の男はゆらりと避け、体勢を低くしてメガミに接近する。

 ガシャンという音がした。銃弾は窓に命中し、破砕音と共に割れていた。

 それからメガミの首元を目掛けて、仮面の男のナイフが肉薄する。だが、彼女は後方に反ってかわした。それと同時に、仮面の男の腹を狙って、膝蹴りを叩き込む。

 男は手でその膝を払いのけ、再度ナイフで追撃した。メガミは舌打ちし、銃床を白刃に叩き付ける。甲高い音が室内に響いた。




 その後、数回攻防を重ねた。膠着状態である。互いに決め手に欠け、攻めあぐねていた。

 メガミは入り口付近、仮面の男はベランダを背にした状態だ。お互いの距離を保ったまま、両者が睨みあう。静寂と緊張感に包まれていく。


 割れた窓ガラスから一迅の風が舞い込んだ。仮面の男の羽織った外套がはためく。

 その瞬間、男はバックステップでベランダに躍り出た。


「おい、待て!」


 発砲音が連続してこだました。発射炎により、室内は明滅を繰り返していく。

 仮面の男は上半身の体裁きだけで、銃弾を掻い潜ってみせた。そして窓枠に足を引っ掛けると、蹴るようにして前方に飛び出す。男の目指すは入り口。素早くメガミの脇を抜けると、縫うように室内を走り抜けた。

 メガミは装備していた小型のナイフを取り出し、逃がすまいと投擲する。仮面の男はそれを弾くと、入り口から逃げていった。

 メガミは慌ててその後を追い、マンションの廊下に転び出る。

 だが、その姿は既に無かった。


「逃げられたか……」


 メガミからすれば、仮面の男の黒装束が暗闇と同化し、戦いづらい相手であった。

 その上、明るい屋外から真っ暗な室内に入ってきた為、目がまだ慣れていなかっただろう。

 実力が拮抗しているように思えた戦いだったが、長引けば仮面の男が不利になっていた。

 それに、いずれ騒ぎを聞きつけて野次馬が集まり始める。これは両者にとっても得策ではない。

 総合的に判断して、仮面の男は逃亡を決めた。


 仮面の男が告げたのは、メガミが捨てた昔の名前だ。

 リベルタス。かつてアメリカの部隊に所属していた頃の、メガミの名だった。


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