Report44: それぞれの思想
メガミの口から作戦の概要が知らされる。
事前に調査した内容によると、リクセンは歪んだ思想の持ち主だが、家族愛の感情は持ち合わせているらしい。意外な事に家族旅行や、週末の外食なども多いという。
「そんじゃあ、レストランでも爆破するのか?」
「制裁を加えるのは、あくまで本人だけだ。周りの人間を巻き込むつもりはない」
ゾフィが戯けてみせる。メガミの言う通り、狙うのはリクセンただ一人だ。また、《ルンギンナーム》の連中にぞろぞろと出て来られても厄介なので、単独行動の時を狙うのがベストだろう。
本人を呼び出すのも難しいし、かといって邸宅の襲撃など、派手な行動も避けたい。大っぴらに犯罪行為に走ってしまうと、《リセッターズ》そのものが存続できなくなってしまうだろうから。それくらい、今回の相手というのはタイの大物だと言える。
「リクセンには小学生の娘が居てな。名前はキャロル。数日後、学校の授業参観がある。毎年顔を出しているから、この日も必ず来るだろう」
どうやって接触するのかを考えていると、メガミが写真を渡してきた。それに俺は驚いてしまう。
映っていたのはリクセンの娘だと言う。だが、俺はこの子を見た事があったからだ。あの、車椅子の少女だった。以前ペイズリーと共闘して、チンピラから救った、あの子だ。
ゾフィは俺と同じ反応を示していた。嘘だろ、という懐疑的な表情だ。写真を見て動揺しているようだった。
「確認なんだが、リクセンは殺すんだっけか……?」
「フン、情でも移ったのか?」
「いや……」
白ブチ眼鏡の奥の感情は読み取れないが、そう尋ねたゾフィに先程までの勢いはなかった。
「ロジー、煽るな。《リセッターズ》では負傷者こそ出ているが、さして恨みはない。多少痛めつけて警察に引き渡せれば……私は構わんがな」
「恨みはない、か。仕事を引っ掻き回されて、事務所も爆破されていますけどね……俺も死に掛けましたし」
「フフン、ウチは札付きの集まりだ。あれくらい日常茶飯事だろう。それに、サーマート含め、《ルンギンナーム》はゾフィが始末したのだろう?」
確かに。あとツケを払っていないのはリクセンのみ、って事か。
リクセンの犯した罪を考えれば、どう斟酌しても大きな罰を与えねばならないだろう。正直言って殺し合いな訳だし、リクセンは世の為人の為に殺してもいいのではないか、と思えてしまう。だが、それって……。
「……殺したいと思うのなら、殺してもいい。だがその場合、ヤツと同じ土俵に立つ、という事を忘れるなよ?」
一拍置いてから、メガミは鋭い眼差しで言い放った。
……ああ、そうか。それをしてしまっては、リクセンと同じになってしまうのだ。自らの思想にとって都合の悪い人間を排除する。殺害する。それではヤツと同じではないか。
だとしたら、俺達は彼を殺してはならない。屠ってしまえば、彼と同類の人間だと認めるようなものだから。
「そんじゃ、ミディアム・レアで許してやるかね」
「成程……ワットプラケオの借りは返させてもらうがな」
ゾフィとロジーはお互い納得したようだ。ロジーからしたら、リクセンは憎き仇敵なのだ。ヘリコプターを撃墜され、大怪我も負っている。
しかしゾフィはあの車椅子の少女、キャロルと面識がある故に、それぞれに思う所があるのだろう。
「授業参観からの帰りを狙うぞ。そして身柄を拘束後、警察に突き出す。尚、今回、本人たっての要望で《ブラックドッグ》からも数名、友軍を招き入れた」
「ほう、そいつは頼もしいぜ」
メガミが説明する。恐らく《ブラックドッグ》所属の好青年、ペイズリーも参加するのではないだろうか。
ともあれ、《リセッターズ》と《ブラックドッグ》の共同戦線を張るわけだ。そしてリクセンを叩く。
これが終われば、また他愛ない日常に戻るのだろうか。日常といっても決して平穏ではない。喧嘩の仲裁や窃盗犯の逮捕、元小悪党の俺に相応しい《リセッターズ》の案件が俺を待っており、ブラック企業といって相違ない自称傭兵集団の下で労働に勤しむのだろうか。




