Report37: 招待状
「フン、俺らをまとめて、消し炭にする腹積もりか……」
ロジーはよっこらせ、とソファを直すと、倒れるように座り込んだ。灰皿がない事に気付いたのか、適当な空き缶を見繕って代用していた。
日本では見た事がないタバコである。この前聞いたのだが、アイスコアという銘柄らしい。
「おう、カメコウは無事だったぞ」
「ゲホ、流石に……デュフ、死ぬかと思ったよ……」
「直にメガミが戻ってくる。そうしたら作戦会議だ」
ゾフィがカメコウを連れて帰ってきた。カメコウはゾフィに肩を貸してもらい、覚束ない足取りである。しかし、一体どんな体をしているのか、救急車は必要なさそうであった。
「爆弾を抱えたまま吹っ飛んで、五体満足ってのは凄いな……」
「まぁな、こいつも伊達に《リセッターズ》の一員じゃあねぇってこった……お、冷蔵庫は無事だな」
俺が言葉を漏らすと、ゾフィは冷蔵庫から冷えた缶コーヒーを取り出して、開栓した。
カメコウがしなしなと、床へ座り込む。俺が濡れたタオルを差し出すと、彼は礼を述べて受け取って、顔を拭き始めた。
途中、それが雑巾だという事に気付いたのだが、俺は黙っておく事にした。
まだ焦げ臭いが、部屋に立ち込めていた煙はだいぶ晴れてきた。壊れた窓とドアから夜風が入ってくるので、換気するには事欠かない。だがしかし……疲労困憊。心身ともに擦り切れてしまった。そう言えば夕飯も食っていなかったっけ。
それから暫く、下の階から見物客が訪れたり、全員途方に暮れたりしていたが、現実を直視し、やれる事を片付け始める。俺は買い物に出掛け、窓を塞げるようなものを探しに行く。
先ほど「今夜は事務所に泊まるか」なんて考えていたのだが、俺はきっぱりと諦めるのだった。
程なくして、メガミが事務所へと戻った。割れた窓ガラスや照明、爆砕した家具を見ると「これはまた、随分と派手にやられたな」と、苦い顔で呟いた。
ちなみに窓はシートで覆い、ガムテープで四隅を留めただけだ。俺がやった。その場凌ぎではあるが、無いよりはマシだった。
メガミは件の手紙、というか果たし状を眺めると、煤のついた事務机に置いた。
爆破の実行犯に指定された場所、ワットプラケオに行くのか否か、ゾフィやロジーを含めて議論する。その結果、意趣返ししてやるという方向で、満場一致となった。明らかに罠であるのだが……、乗り込んでボコボコにしてやりたいという気持ちが勝った。すぐに出発だ。
「私とロジーは東口のサナムチャイで待機している。何かあれば知らせろ」
「了解。俺達は正面から侵入する」
作戦の概要はこうだ。俺とゾフィがワットプラケオの正面から侵入。メガミとロジーはヘリコプターに乗り込み、付近で待機、何かあれば加勢するといった塩梅だ。
カメコウは負傷したので留守番である。
ワットプラケオはバンコクにある寺院だ。観光地であり、日中は数百バーツを払えば拝観する事が出来る。
通常、北に位置するウィセーチャイシー門が入場口となっており、俺とゾフィはそこから突入するのだ。ヘリコプター組は、寺院の東側にあるサナムチャイ通りで待機、という事だな。
敵が何故この場所を指定するのかは分からない。タイの中でも格式高い、王宮寺院なのだから。
何か目的があるのか。それとも、歴史や思想に基づいた選択の結果なのか。
先程の爆発のように、奇襲を仕掛けるならば幾らでも出来た筈。ならばきっと、あれは挨拶、もしくは警告なのだ。




