Report21: チンピラVS傭兵
「キャッ!」
「危ねぇぞ。ちゃんと前を見てなきゃ……」
前方から車椅子が突っ込んできた。乗っていたのは少女だ。ゾフィがそれを手で受け止め、女の子の目線までしゃがんで、諭した。
白いブラウスに、下は花柄のスカート……清楚というか、育ちが良さそうな娘だった。
何やら慌てているようで、顔色は悪い。
ふと前を見てみると、いかにもガラの悪そうな連中が怒気を発しながら近づいて来ていた。
「成程な」
ゾフィが溜め息をついた。チンピラは三人で、タイのストリートファッションに身を包んではいるが、タイ人ではなさそうだ。
「オイ、ガキ! コラァ! 逃げてんじゃねーぞ!」
「お母さん呼んでくれるかなァ~? 殴っちゃうよ~?」
「舐めてんの? 人にぶつかったらスイマセンだろ? あァ?」
口々に乱暴な言葉を少女に浴びせるチンピラ共。
見た感じ東洋人だ。タイ語で話している事から、この辺で仕事をしている人間なのだろう。
……見た感じ、かなりヤバそうな連中だ。俺だったら間違いなく逃げるシチュエーションだな。
「おい、オッサン、邪魔」
「ブチ切れそうなんだよね~、マジでさ~」
「俺達、その子に用があるんスよ」
ゾフィは立ち上がると、ずり落ちてきた白ブチ眼鏡をクイっと上げ直した。
「お前らよォ、子供相手にくだらねぇ事してんじゃねーよ」
敢然と立ちはだかるゾフィ。彼はチンピラを直視したまま動かない。俺はというと、内心かなりビビッていた。と言うのも、生まれてこの方喧嘩などしたことも無いからだ。いつも足の速さで乗り切っていた。
チンピラAが、吸っていたタバコをポイ捨てし、足で踏み潰して消した。
「……あァ?」
そして威圧すると、一歩前へ出て、ゾフィの目と鼻の先まで顔を近づける。
ちなみにタバコのポイ捨ては、タイでも罰則を受ける。……尚、注意するつもりはない。
「へへッ……!」
ニヒルな笑いを浮かべるゾフィ。車椅子に乗った女の子の前に陣取って、仁王立ちしている。
先手を取ったのはチンピラAだ。ゾフィの懐に入っていたそいつは、死角となる真下からアッパーを繰り出した。
それを読んでいたかのように、首を反らして避けるゾフィ。
残りのチンピラ二人も加勢するつもりらしく、ファイティングポーズを取って俺達を囲み始めた。
『おい、見ろ! 《リセッターズ》が何かやっているぞ!!』
『なんだ、どうした?』
何事か、と人が徐々に集まってくる。「やっちまえ!」とか野次を飛ばし始めた。そんな事言ってないで、出来れば警察を呼んでほしい。
俺はどうしたものかと、この状況下でただ息を呑んでいた。
俺一人なら逃げられると思う。足の速さには自信があるからな……。
ただ、ゾフィを置いていくのは違うと思う。というか、ゾフィがやられるとも思えない。どうするんだ、ゾフィ!
「へぇ~、強そうじゃん。でも、俺、こんなの持ってんだよねぇ~」
そう言うと、チンピラBがバタフライナイフをポケットから取り出した。
「刺し殺すわ~。まずは弱そうなお前から……死――」
ナイフを片手にチンピラBが突進する。狙うのはゾフィの心臓……
ではなく、俺だった。
マジかよ! ヤバイ、車椅子が邪魔で避けられない……!




