Report20: 余暇
今日はオフだ。
この仕事――つまり傭兵稼業を始めて、休日という概念は無かった。契約書も無ければ有給も無い。
まず、そもそも定時という概念すら無い。毎朝九時に出社……というかあの場所に集まって労働を開始し、仕事が終われば帰れる。終わらなければ帰れない。
夕方五時が終業という訳でもないので、残業代が出ているとか出ていないとか、もはやそういった次元の話ではないのだ。
現代日本で言えば、明らかな違法労働である。
恐らく、税金もちゃんと支払っていないのではなかろうか。
さておき、日によっては仕事がない時もあった。
そういう時は顔だけ出して自由行動になったり、事務所の掃除をさせられたりする。
あとはカメコウにタイ語を習った事もあったな。
今日もその類なのだろう。俺は今、ヤワラート近辺でゾフィと買出しをしている。メガミに頼まれたからだ。
飲料、保存食、トイレットペーパーは既に買った。シンハーも買った。
事務所でたまに、メガミやゾフィが飲んでいる姿を見かける。“仕事が終われば飲んでいい”というのは、《リセッターズ》の数少ないルールかもしれない。
「そういやさ、聞いた事が無かったけど、仕事は元々何を?」
時刻は午前十一時。俺はゾフィと肩を並べて歩いていた。この際だから、気になる事を色々と聞いてみる事にしたのだ。
スキンヘッドのマッチョ・ガイで、白ブチの眼鏡をかけた黒人。思えば、コイツの事をあまり知らないのだ。名前も年齢も、過去も。
「俺は元々軍隊のモンだ。アメリカに居た。メガミも一緒だな」
「成程ね。それで荒っぽい仕事ばかりを任されているのか」
「まぁな。メガミがフリーの傭兵部隊を作るって聞いて、面白そうだから参加する事にしたのさ。……で、今に至る」
「へぇ、……前科はあるのか?」
俺がそう聞くと、ゾフィはこちらを一瞥する。
天気は曇りだった。タイは暑いので、外出するならばこれぐらいが丁度良い気候だろう。昼時という事もあってか、大勢の人が出歩いていた。俺達はその中を歩き、互いに会話を続ける。
「……聞きたいか?」
前を向き直り、言葉を紡ぎ出すゾフィ。
この質問はデリケートだと、俺は思う。だけど、俺がどうしても聞きたかった一つの疑問でもある。
質問した彼から殺気は感じないし、怒っている様子もない。いや……感情を表に出していないだけかもしれないが。
「……いや、やっぱやめておくよ。俺とカメコウ、ロジーの事は皆知っているのに、何だかフェアじゃないと思っただけだ」
俺がそう言うと、ゾフィは笑っていた。
「俺はただのゴロツキだ。お前らと同じで、あの女にリセットされた口さ」
ゾフィが飄々とした口調で語る。
「メガミは元々、貧しい生活だったらしい。金の為に軍隊に志願したが、あまり良い思い出が無いようだな。
……それで、独立した。タイに拠点を構える事にしたのは最近だ。俺も多くは知らないがな」
改まって、そう告げた。
察するに、他にも何か知っているのだろう。白ブチ眼鏡で目元はよく窺えない。何を考えているのだろうか。
故郷、家族、友人……俺にはもう何も無い。だけど、もしかしたら……このタフガイには帰るべき所があるのかもしれない。
「ちなみに、お前の事はユーチューブで知って、会ってみる事にしたんだ。
動画を見つけたときのアイツは上機嫌だったぞ。『見ろ、こいつは上物だぞ』ってな! ハハハ!」
「そうだったのか。何だか素直に喜べないな……」
あの動画か……。俺も反省はしているんだけどな。
仮にこの生活が終焉を迎えて、解放されたとしよう。日本に戻って、俺はまた罪を犯すのだろうか。
俺に帰るべき所は、果たしてあるのだろうか……。




