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リセットメガミ  作者: さっさん
File3: 女神と不穏な影 ~凶行と強行~
20/101

Report20: 余暇


 今日はオフだ。

 この仕事――つまり傭兵稼業を始めて、休日という概念は無かった。契約書も無ければ有給も無い。

 まず、そもそも定時という概念すら無い。毎朝九時に出社……というかあの場所に集まって労働を開始し、仕事が終われば帰れる。終わらなければ帰れない。


 夕方五時が終業という訳でもないので、残業代が出ているとか出ていないとか、もはやそういった次元の話ではないのだ。

 現代日本で言えば、明らかな違法労働である。

 恐らく、税金もちゃんと支払っていないのではなかろうか。


 さておき、日によっては仕事がない時もあった。

 そういう時は顔だけ出して自由行動になったり、事務所の掃除をさせられたりする。

 あとはカメコウにタイ語を習った事もあったな。

 今日もその類なのだろう。俺は今、ヤワラート近辺でゾフィと買出しをしている。メガミに頼まれたからだ。

 飲料、保存食、トイレットペーパーは既に買った。シンハーも買った。


 事務所でたまに、メガミやゾフィが飲んでいる姿を見かける。“仕事が終われば飲んでいい”というのは、《リセッターズ》の数少ないルールかもしれない。


「そういやさ、聞いた事が無かったけど、仕事は元々何を?」


 時刻は午前十一時。俺はゾフィと肩を並べて歩いていた。この際だから、気になる事を色々と聞いてみる事にしたのだ。

 スキンヘッドのマッチョ・ガイで、白ブチの眼鏡をかけた黒人。思えば、コイツの事をあまり知らないのだ。名前も年齢も、過去も。


「俺は元々軍隊のモンだ。アメリカに居た。メガミも一緒だな」

「成程ね。それで荒っぽい仕事ばかりを任されているのか」

「まぁな。メガミがフリーの傭兵部隊を作るって聞いて、面白そうだから参加する事にしたのさ。……で、今に至る」

「へぇ、……前科はあるのか?」


 俺がそう聞くと、ゾフィはこちらを一瞥する。

 天気は曇りだった。タイは暑いので、外出するならばこれぐらいが丁度良い気候だろう。昼時という事もあってか、大勢の人が出歩いていた。俺達はその中を歩き、互いに会話を続ける。


「……聞きたいか?」


 前を向き直り、言葉を紡ぎ出すゾフィ。

 この質問はデリケートだと、俺は思う。だけど、俺がどうしても聞きたかった一つの疑問でもある。

 質問した彼から殺気は感じないし、怒っている様子もない。いや……感情を表に出していないだけかもしれないが。


「……いや、やっぱやめておくよ。俺とカメコウ、ロジーの事は皆知っているのに、何だかフェアじゃないと思っただけだ」


 俺がそう言うと、ゾフィは笑っていた。


「俺はただのゴロツキだ。お前らと同じで、あの女にリセットされた口さ」


 ゾフィが飄々(ひょうひょう)とした口調で語る。


「メガミは元々、貧しい生活だったらしい。金の為に軍隊に志願したが、あまり良い思い出が無いようだな。

 ……それで、独立した。タイに拠点を構える事にしたのは最近だ。俺も多くは知らないがな」


 改まって、そう告げた。

 察するに、他にも何か知っているのだろう。白ブチ眼鏡で目元はよく窺えない。何を考えているのだろうか。


 故郷、家族、友人……俺にはもう何も無い。だけど、もしかしたら……このタフガイには帰るべき所があるのかもしれない。


「ちなみに、お前の事はユーチューブで知って、会ってみる事にしたんだ。

 動画を見つけたときのアイツは上機嫌だったぞ。『見ろ、こいつは上物だぞ』ってな! ハハハ!」

「そうだったのか。何だか素直に喜べないな……」


 あの動画か……。俺も反省はしているんだけどな。

 仮にこの生活が終焉を迎えて、解放されたとしよう。日本に戻って、俺はまた罪を犯すのだろうか。

 俺に帰るべき所は、果たしてあるのだろうか……。


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