Report16: 善悪の拠り所
「着いたぞ」
大通りだ。銀行前には既にパトカーが数台停まっていた。複数の警察が無線を片手に作戦を遂行しようとしている。野次馬もそれなりに居た。
そこで、ふと、作戦らしい作戦を一つも知らされていない事に気付く。どうやってカウィンを連れ出すのだろうか。
「お前は裏口に行け。私が派手に暴れて引き付けるから、その隙に入れ。足の速さを活かすんだ。中に入ったら待機。私からの連絡を待て」
「えっと、……了解です」
運転していたメガミはサングラスを掛け、指で俺に合図を送る。車から出ろ、という事らしい。
俺は急いで降りた。まごつく俺を尻目に、車はすぐに銀行正面へと加速していった。
行ってしまった。だが、気に病んでも仕方ないので、俺は指定された裏口へと回り込む。その途中、アサルトライフルの銃声と警察の声、発砲音が聞こえてきて、一帯が物々しい空気になる。
「モラル、ねぇ……」
裏口に居た警察数名が何事かとその場を離れた。その隙に、俺は裏口から侵入した。ありがたい事にロックは既に解除してあった。
スタッフ用と思しきその出入口は、バックヤードに繋がっており、積まれた段ボールや掃除用具、ロッカーが置かれた一画だった。銀行は同じフロアであるが、隣の区画である。
誰かが居たらまずい、と身を潜めつつ、俺は息を殺して内部を進んでいった。
「さて、待機と言われたが……どうしようか──ッ」
そう思ったのも束の間、何かの気配を感じ取った。
誰だ……?
足音はしないが……、上層から階段を降りてくる気配がある。危険を察知し、俺は腰のグロック17に手を伸ばした。
中に居る人間は既に全員、表に避難している筈だ。
この建物は三階建てで、三階にはテナントが入っていない。二階の人間は脱出済み。……となると、警察か?
俺は拳銃を構え、忍び足で階段へと近づく。階段はぐるりと一周する形で上層へ繋がっており、何者かの脚が見えた。茶色いブーツ、青っぽいズボン、……結構細い身体をしているようだ。
そいつは獲物を狩る猛獣のように足音を殺し、一段ずつ降りてくる。俺の心拍数がどんどん上がっていき、緊張から手足が冷たくなっていく。
そうして、悠々とした足取りで降りてきたのは黒いジャケットを羽織った人物で、金色の髪は肩ぐらいの長さで切り揃えられ、目はガーネットのように赤い女……メガミだった。
「……驚かさないでくださいよ」
俺は大きく息を吸い込むと、吐き出す。そしてメガミを諌めた。半ば呆れていたのだが、メガミで良かった、と安堵もしていた。
「すまんな。隣の建物から飛び移って来たんだが、作戦を説明する時間がなかった。今回の依頼はスピード勝負だからな」
彼女は辺りを警戒しながら弁明すると、さぁ、行くぞ──と隣の区画に入ってゆく。俺は無言で、その背中に続いた。
隣のビルから飛び移ったって言うが……、確か五メートル以上、距離が離れていたと思うのだが……。
銀行のある区画に入り、廊下をそろりそろりと進んでいった。銀行と廊下はガラスで区切られており、ガラスの下部には暈しが入っている為、身を屈め、隠れながら移動していく。
そして、メガミがガラス越しに犯人の姿を確認したようだった。
どうやら犯人は、こちらに気付いていないようである。
「警察の突入まで、あまり時間が無い。即行で畳み掛けて犯人を連れ出す。三つ数えたら入るぞ、援護しろ」
「連れ出した後は?」
「問題ない。手配済みだ!」
メガミは腰からグロック17を取り出して、三つ数え始め、そして堂々と自動ドアから突入する。カウィンがこちらを振り返り、視線が交錯した。俺は戸惑いながらも、メガミの後から続いていった。




