表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リセットメガミ  作者: さっさん
File2: 女神は暴力を振るう ~善悪の区別~
15/101

Report15: 誰が為、何が故

 聞いた話によれば、銀行強盗が発生し、男が中に立て籠っているようだ。人質は一名だけで、他の人間は待避済み。

 犯人は拳銃を所持しているのだが、問題なのは犯人が国務大臣の息子だ、という事だろう。犯人の名はカウィン・アーティットというらしい。

 依頼主は国務大臣その人であり、そして、警察が突入する前に片を付けろ、とのお達しであった。つまり……。


「揉み消すって事ですか」

「ああ。金を貰えれば何でもやるのがウチの信条だ」


 国務大臣は、事件そのものを無かったことにしたいらしい。つまり、俺達は警察が突入する前に、強盗を救い出すって事だ。

 それって……共犯ではなかろうか。

 今までも非合法のような仕事はあったのだが、今回はいよいよデビューというわけだ。警察に見つかってしまったら、俺達はどうなるのか、想像に難くない。


 世間からは《リセッターズ》が便利屋で、金を払えば何でもやると思われているが、実際はそうではないのだ。

 この部隊、というかグループに所属して分かったのは、個々のモラルに依存する形で仕事を取捨し、請け負っているという事実である。

 何でも屋的な側面を有してはいるが、悪党に成り下がるつもりは毛頭無いらしく、嗜虐的な殺戮やテロ行為、故意に法を犯す事を、彼らは決して良しとしないのだ。

 ある意味で自由。居る人間の気質からして、それが妥当なのだと知れた。


 前にメガミが言っていた。「痴漢は重罪だ」と。

 俺を“片玉”にした理由を恐る恐る聞いた時の事だ。リセットする為、今後の為、そして何よりお前の為、やったのだと答えていた。

 女性にとって、痴漢という行為がどれだけ恐怖を与えるものなのか、そして苦痛か。それを男が充分に理解する事は出来ない。

 つまりこれは、性別によって罪の意識に差が生まれる、という事を示唆している。

 性別だけではない。世代、環境、時代、国……あらゆる要素によって、それは変化してしまう。だから俺はその時、自分が犯した過去を今一度見直し、悔い改めた。


 だが、だとしたら、何を以って、正義と悪をより分けるのか。それは、俺の隣に座っている、この女神にしか分からないのだろう。

 今回のそれは、俺から見たら確実にグレーゾーンを逸脱しているわけだが……。




 道中、建物の基本構造と、周辺の地図を車内で見せられた。建物は三階建て。通りに面した、銀行の正面に入り口が一つと、裏に非常用の出口が一つあるようだ。建物の屋上にも出入口があるが、隣接する建物は無く、最低でも五メートル程は離れていそうである。

 メガミは小口径の自動小銃を持ち出してきている。アサルトライフルで“M16”と言うらしい。使用するのかと尋ねると、「安心しろ、殺しはしない」と、安心できない答えが返ってきた。


「そういえば犯人、カウィンの要求は何なんです?」

「逃走用のヘリを用意しろ、らしい」


 俺は成程、と相槌を打った。だが、疑問に思う事がある。カウィンは逃走の準備をしていなかったのだろうか。

 ……って事は、一人で銀行強盗をした? 仲間は居ないのか?


 何故、銀行強盗をしたのだろうか。逃亡の算段も整っていないのに。

 しかも、こんな昼間から……。まだ午前十時にもなっていない。


「……父親と仲が悪かったらしいぞ」

「腹いせ、ですか」


 しかめっ面の俺が気になったのか、メガミがそう添えた。

 メガミの目には何が見えているのだろうか。遠くを見据えたままの横顔を、俺は眺める。傍から見れば、見惚れているように見えるかもしれない。

 何か引っ掛かる所があるようで、彼女はいつもより険しい表情をしている……気がした。


 どうやら、カウィン・アーティットは金目当ての犯行ではないらしい。もし、俺の推理が正しいのならば、国務大臣である父親への嫌がらせという事になる。

 だとすれば、政治的な信用を失墜させるのが目的、か……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ